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ビジネスパワーアップコラム<プレゼン編> 第九回

前回のプレゼン編コラムでは、プレゼン内容に対する「納得感」を得るには、論理面の正しさだけでなく、心理面も合わせて考える必要があるというお話をしました。今回のコラムでは論理の展開を考える上で重要なポイントである「本質」の考え方について、お話をしたいと思います。

さて、今回は一つ質問をしてみましょう。皆さんがプレゼンやセミナー等に参加した場合、終了後、3日、1週間と時間が過ぎて、記憶に残っているポイントはいくつくらいありますでしょうか? 3つ? 5つ? それくらい残っていれば、きっと素晴らしいプレゼンやセミナーだったのだろうと思います。私自身の経験でいえば、1週間経っても記憶に残っていることは、せいぜい1つないし2つかな、と思います。場合によっては全部忘れてしまっていることも残念ながら、多いかもしれません。

1週間経って「一つ」でも情報が記憶に残っていれば、残りの情報については「記憶をたどる」ことで思い出すことが可能です。あるいは、資料やメモを見返すことで必要な情報に再度触れることも可能です。ですが、残念ながらこの「一つ」の情報を相手の記憶に残すということすら、実は非常に難しいのではないかと私は思っています。多くの情報が入り乱れている現在では、日頃から意識しなければならない情報も多いため、その情報自体の重要度がよほど高いか、あるいは情報のカテゴリ自体に元々関心が高い等の状態でなければ、新しい情報を記憶に留めることは難しいのではないかと思います。

ということは、非常に酷な話ですが「プレゼン終了後、相手の記憶には何も残らないかもしれない」という前提を、シナリオ構築時には念頭に置いた方が良いということになります。もし記憶に何も残らない可能性があるのであれば、「これだけは」覚えておいて欲しいというポイントを一つに絞り、そのポイントについて集中的に触れるようにした方がプレゼンの成功確率は上がるということですね。

「本質」とはすなわち「これだけは絶対に記憶して欲しいポイント」と言い換えることが可能です。

プレゼンの機会があると、ついつい「あれも言いたい」「これも伝えたい」「こんなこともあった」と「ネタ」をいくつも考え、それらを全部均等に盛り込んだ「幕の内弁当」的なシナリオを考えてしまうことが多いのではないかと思います。ですが、お弁当であれば記憶に残るのは、幕の内弁当よりもずっとシンプルな「鮭おにぎり」だったりすることもあるわけです。色々なおかずの総合力で勝負するよりも、鮭自体のおいしさ「一本勝負」に賭けた方が、大きなインパクトを得られる可能性が高くなるということですね。

プレゼンについても全く同じことが言えます。「相手の記憶にたった一つだけ残せる話題があるならば、自分はどの情報を伝えたいか」。このように考えると、自ずとプレゼンのテーマにおける「本質」が見えてきます。それと同時に「プレゼンシナリオを作ろう」(第六回コラム)でお話した「相手の疑問」が何かを考え、自分が最も伝えたいと思っていることが相手の疑問に対する答えになっているかどうかも確認するようにします。プレゼンテーマの本質がきちんと相手の疑問に対する答えになっていれば、プレゼンに対する相手の理解度も上がりますし、結果として「同意を得られる」可能性が高くなります。

例えば「コスト」「性能」「実績」の話をしたいと思った場合、全部の情報を相手に記憶させるのは難しいと、まずは考えます。その上で、相手の究極の疑問が「コスト」であることが想定されるならば、「性能」や「実績」の話も全て「コスト」に繋がるように組み立て直すことで、コスト面を中心としたシナリオを構築するようにします。なぜならば、今回のテーマの本質は「コスト」だからです。このように「本質」を考えることで、単に「コスト」「性能」「実績」等の情報を列挙するよりも、相手の記憶に「コストメリット」に関する情報を残しやすくなります。そして「コストメリット」の記憶を残すことが出来れば、そこから「性能」「実績」の話も思い出してもらえる可能性が出てくる、ということになります。

もし、シナリオの作成で迷ったら、まずは「相手の記憶に、自分は何を一番残したいか」と考えてみて下さい。伝えたい情報が多い場合も同じですね。「相手の記憶にたった一つだけ残せるものがあるならば、それは何か」このように「本質」を考える癖を付けると、より理解しやすいシナリオの構築が可能となります。参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓