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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第十一回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、論点の関連づけを考える際の思考方法である「演繹法」と「帰納法」についての基本をご紹介しました。演繹法・帰納法はそれぞれ

・演繹法=論点同士の「意味合い」に基づく関連づけを考えること
・帰納法=論点同士の「類似性」に基づく関連づけを考えること

このような特色を持っており、それぞれを区別した上で使い分けることが論理思考においては重要となります。

今回のコラムでは「演繹法」について、もう少し掘り下げたお話をしたいと思います。

演繹法とは上記の通り、「意味合い」に基づく関連づけを考えることを意味します。まずは改めて演繹法の簡単な事例を示し、演繹的に考える際の基本的なポイントを説明しましょう。

例1
・人間はいつか死ぬ(大前提)
・ソクラテスは人間である(小前提)
・ソクラテスはいつか死ぬ(結論)

例2
・鳥は空を飛ぶ(大前提)
・私は鳥だ(小前提)
・私は空を飛ぶ(結論)

演繹法では、始めに実在する状況について述べます。これを大前提と呼びます。次に、もう一つの実在する関連状況を述べます。これを小前提と呼びます。最後に、これらの大前提・小前提が同時に存在する意味について論じます。これが結論となります。

以上の流れで演繹法を考える際には、大前提と小前提の間の「意味合い」に基づく関連性が実際に存在するかどうかの確認を行うことが重要なポイントとなります。この確認作業は具体的には、小前提の表記が大前提の表記の「主部」か「述部」のいずれかを補足することが出来ているか、言い換えれば小前提は大前提に対する「コメント」と考えられるかどうかをイメージすることで行われます。

先程の例1であれば、小前提(ソクラテスは人間である)は、大前提の主部(人間)を補足しています。例2であれば、小前提(私は鳥だ)は、同じく大前提の主部(鳥)を補足しています。このように補足=コメントを作成するすることで、大前提と小前提の間に「意味合い」上の関連性が構築されることとなります。そして、これら2つの前提条件が両方とも成立する(=「意味合い」の上で関連する)ことの意味を「結論」としてまとめることになります(ちなみに「私は鳥だ」は、鳥がそう思っている分には事実となります。人間がそう思っていたら少し問題ですが・・・)。

言い換えれば、演繹法で考えることが可能な場合には「ロジックライン」と呼ばれる、論点同士を矢印で繋げた一本の直線をイメージすることが可能となります。例えば、上記の例1であれば、

人間はいつか死ぬ → ソクラテスは人間である → ソクラテスはいつか死ぬ

例2であれば、

鳥は空を飛ぶ → 私は鳥だ → 私は空を飛ぶ

このようなロジックラインを構築することが可能となります。すなわち

「A(だから)→ B(だから)→ C(となる)」

というイメージを思い浮かべることが可能であれば、「演繹的に論点が繋がっている」ことになります。

では、以下の例はいかがでしょうか。

例3
すべてのウサギはとても速く走る → ある馬はとても速く走る → ある馬はウサギである

この例だけを見ると、どう考えても話がおかしいですよね。馬がウサギであるわけはありません。ただし、このような「論理的な関連性が実際には存在しない」にも関わらず、見かけ上は演繹的に考えたつもりで、異なる論点を繋いでしまうことは実際の思考上はあり得る話です。

演繹的に考える際のポイントをもう一度確認しましょう。演繹法においては

小前提の表記が大前提の表記の「主部」か「述部」のいずれかを補足することが出来ているか
言い換えれば小前提は大前提に対する「コメント」と考えられるかどうか

この点をイメージすることで、大前提と小前提の間の論理的な関連性を確認することが可能となります。

先程の例3の場合は、第一ポイント(ウサギ)と第二ポイント(馬)の間には共通の述部(速く走る)は確かに存在していますが、第二ポイントは第一ポイントのコメント(あるいは「述部」の補足)ではなく、全く独立した事象となっています。従って、第一ポイントと第二ポイントの間には論理的な関連性は存在しませんので、第三ポイントのような結論を導出することは出来ない、ということになります。

まとめますと、演繹法で考える際には

小前提は大前提に対する「コメント」と考えられるかどうか

を確認することが重要であり、この確認に問題がなければ

論点を繋ぎ合わせた「ロジックライン」がイメージできる

ことになります。

演繹法は別名「三段論法」とも言いますが、人間の思考様式としては極めて一般的なものです。ロジックライン的に「A(だから)→ B(だから)→ C(となる)」と論点を繋ぎ合わせていくことは、「演繹法」という言葉自体は知らなかったとしても、一般的には普通に行っていることだと思います。このように演繹法は思考様式としてはイメージしやすいものであり、前述の「ロジックライン」のイメージに気をつければ論点をいくつでも繋ぎ合わせることが出来ます。

ただし、その裏返しとして、話を聞く立場からすると、話自体が「回りくどい」「重苦しい」といった印象を持ってしまうことが多くなります。従って、プレゼン等の「簡潔な説明」が求められる場では、演繹的な論点の展開はあまり行わない方がよいでしょう。このような場では、次回のコラムでお話する「帰納法」を活用することで、より簡潔かつ論理的な説明が可能となります。この点も併せて覚えていただければと思います。

(担当:佐藤 啓