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ビジネスパワーアップコラム<プレゼン編> 第八回

前回のプレゼン編コラムでは「Q&A」を活用することで、伝えたい話の内容が伝わりやすくするだけでなく、相手に対する自分の「好意」も同時に伝えられるという話をしました。今回のコラムではこの点に関連し、人間が「物事を納得する」仕組みについて、お話したいと思います。

プレゼンの最終目的は「自分が伝えたいテーマに対して相手の同意を得ること」ですが、一般的に言えば、同意を得るためにはまず、相手が自分の話に納得出来なければなりません。もちろん、納得できないポイントがいくつかあったとしても同意可能なケースはあるでしょうし、逆に話自体に納得は出来ても同意できないケースもあるでしょう。ですが、このようなケースは、選択肢や予算が限られている等「話の内容」以外のポイントが意思決定に影響を及ぼしている場合が殆どです。一般的には納得できないポイントができる限り少ない方が同意を得られやすいことは事実ですので、相手が納得できるように話をすることはいずれにしても大切な点となります。

では、どのようにすれば自分の話に相手が納得するのでしょうか。私は一般的に「納得」というのは大きく「論理」と「心理」の2つの軸に分解して考えることが出来、それぞれの納得感の得られ方で、全体としての納得感も変わってくると考えています。簡単に言えば「正しいか、正しくないか」という論理面と、「好きか、嫌いか」という心理面の組み合わせで、納得感の得られ方が変わるということですね。

プレゼンについての学習では「論理面」言い換えれば「論理思考」との組み合わせで話の進め方を学ぶ機会も多いと思います。実際に私が担当するプレゼンシナリオに関するセミナーにおいても、論理思考についての話をしています。「論理面」言い換えれば「正しいか、正しくないか」ということは話をする上では大切なポイントであり、もちろんですが正しいと自分自身が自信を持って話せる内容をできる限り伝えていかなければいけません。

ですが、少しイメージしてみましょう。どれだけ正しい話をしたとしても、相手側の担当者が自分自身のことを「嫌っている」としたら。論理的には非常に素晴らしく、また分かりやすい話だったとしても、もし相手自身に全ての決定権がある状態でしたら、おそらく相手は同意をしないのではないでしょうか。

これは、論理的には納得できても、心理的には納得できず、しかも優先順位としては「論理<心理」であるから、なのですね。

人間とは難しいもので、「理」ではなく「情」の生き物です。全てが論理的に正しいという話だけで回るなら、ビジネスのハードルもずっと下がるはずですし、世界はもっと平和になると思います。ですが、そのような世界は人間の世界ではなく、ロボット=プログラミングされた世界でしかあり得ないと私は思っています。人間の判断には多かれ少なかれ「情」が絡んできてしまうので、いくら「正しい」話をしたところで、そもそも自分自身のことが嫌われている状況なら、心理的な面での納得感を得られず、結果として同意も得られにくい、という話が一般的だと私は思っています。

すなわち、相手が納得できる話をするためには、論理面での正しさはもちろんですが、それ以上に「心理面」が重要であるということを認識する必要がある、ということです。ビジネスの場合であれば、上司や部下、あるいは取引先等でも全て同じですが、「自分自身が相手にとって何らかの役に立っていること」が相手の心理面に大きく影響を及ぼします。相手に対して時間的・金銭的等の直接的なメリットがある場合はもちろんですが、「ムードメーカー」として「一緒にいると楽しくなる」「元気が出る」等の間接的なメリットも効果的な場合が多いと思います。

このように、相手に何らかのメリットが生じている状況ですと、心理的な納得感が得られやすくなります。要は「この人が言っているのだから」というように、「話の中身」ではなく「人」で判断されやすくなるということですね。この状態に持って行くことが出来れば、論理面で多少正しくないところがあったとしても、逆に相手から「助け船」を出されたり等、最終的に話をまとめることは格段に行いやすくなります。

心理的な納得感は一朝一夕で得られるものでは決してありません。まずは相手にとって役立つことを行うことで「信用」を得て、さらにその信用を積み重ねて「信頼」される関係を構築することが必要です。社外でのコンペ等「一発勝負」の場では難しいかもしれませんが、逆に社内でのプレゼン等であれば、心理的な納得感を得られるような「下準備」を行うことは非常に効果的であると私は思っています。

大切なポイントは、物事の納得には「論理面」と「心理面」という2つの軸があり、たいていの場合は「論理<心理」という優先順位で相手は考えているという点に気づくことです。プレゼンの機会がある方は、是非この「心理面」の納得感の得られ方についても考えてみることをお薦めします。
(担当:佐藤 啓