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ビジネスパワーアップコラム<アイデア発想法編> 第十四回

前回のアイデア発想法編コラムでは、アイデア発想の際に生じうる「ツールや考え方を駆使しても、どうしてもアイデアが思い浮かばない」=「どうしようもない行き詰まり」の際の解決方法に関し、「口に出してみる」ことの有効性についてのお話をしました。

口に出してみることの効用は、大きく分けて

・情報整理の円滑化
・発想自体の活性化
・周囲へのアピール

以上の3点であり、アイデアに行き詰まった場合には「口に出してみる」ことで、

・脳の働きが活性化され、「出来たこと」「出来ていないこと」の整理がしやすくなる
・状況の整理を行うと同時に、発想自体が効率化され、追加のキーポイントを見いだしやすくなる
・口に出して状況を明確化することが周囲へのアピールにも繋がり、新たな情報の取得だけでなく、情報自体の整理もしやすくなる

これらの効果を期待できることがポイントでした。

今回のコラムでは、アイデアに行き詰まってしまった場合の3番目の対応方法として、「発想の環境を変える」ことの重要性についてお話ししたいと思います。

皆さんは、お風呂やトイレなどにいるときに、ふと「あっ、そうだ!」とアイデアが浮かんだ経験はありませんか? あるいは、眠りについて、少し落ち着いた頃に「あ、なるほど!」「そういうことか!」と思った経験はありませんか? 私自身はどちらも良くあるのですが、面白いもので、アイデアに煮詰まったときほど、検討作業を行っていた場所からいったん離れ、環境を変えることで新たな発想が浮かんで来やすくなります。

環境を変えることが発想に与える影響は大きく2つあります。一つは「刺激」であり、もう一つは「リラックス」です。一見するとこれらは相反する要素に思えるかもしれませんが、実は「刺激」と「リラックス」は、発想の上ではどちらも大切な要素となります。

まず「刺激」についてですが、様々な情報に触れることで「刺激」が発生すると、脳が活性化されることは多くの研究から立証されています。例えば、アメリカの生物学者フレッド・ゲイジ博士がネズミの発育に関して行った研究によると、二つの飼育箱を用意し、一つは何も物が置かれていない環境、もう一つは回転車やハシゴなどの様々な遊び道具を入れた環境として、その中でネズミを育てた場合、遊び道具がある環境で育ったネズミの方が、脳の海馬(記憶を司る領域)のニューロン(神経細胞)の数が平均で15%多く、ニューロン自体の増殖能力も2倍以上になったとのことです。実際に旅行先等で、日頃は目にしないようなものに触れて「へぇ!」と思ったときに、色々とアイデアが浮かんで来やすくなることは、皆さんも想像できるのではないでしょうか。

逆に、様々な検討を行っているときに、ずっと同じ場所で考え続けていると、このような「刺激」がどんどん失われていきます。脳はもともと変化を嫌う性質がありますので、刺激の少ない環境は脳にとっては「心地よい」環境ともいえます。そして、脳が心地よいと感じているときは、脳の活動レベルも低い状態にありますから、発想がどんどん浮かばなくなるというわけですね。この点からも、発想を行う際には、脳には常に「適度な刺激」を与える必要があり、そのためには「散歩をする」「片付けなどの作業を行う」「目や頭を動かして、視点を変える」など、適度な刺激を与える環境や変化する状況を意図的に作り出すことが大切なポイントとなります。

一方で「リラックス」も、発想の上では大切なポイントです。延々とアイデアを考えている状態の脳は「緊張している」とも言えます。刺激はアイデア発想の上では重要ですが、脳が緊張している状態とは言い換えれば「発想がある領域に限定されている状態」であり、それ以外の領域からの自由なアイデアが浮かびにくくなります。宋の欧陽脩の故事に「作文三上(さくぶんさんじょう)」という言葉がありますが、これは「よい文章を作るのに適した3つの場所」を意味し、それは具体的には「馬上」「枕上」「厠上」を指します。言い換えれば「移動中」「寝床」「トイレ」この3つの場所ではリラックス出来ることが多いので、自由な発想が浮かびやすいということなのですね。

これ以外にも、例えば私の場合は「ソファ」「キッチン」あるいは「海辺」などはリラックスできる場所になります。どうにも煮詰まってしまったときには、このような場所に移動することで、新たな発想を期待できます。人によってリラックスできる場所は色々と違いますので、皆さんもぜひこのような視点で「自分がリラックスできる場所」を一度思い浮かべてみると良いと思います。

まとめますと、

・発想の環境を変えることで、「刺激」と「リラックス」双方の効果を期待できる
・環境が変わることで刺激が増えると、脳が活性化し、アイデアが浮かびやすくなる
・環境が変わることでリラックス出来ると、脳が緊張状態から解放され、自由な発想をしやすくなる

環境がアイデア発想に与える影響について、押さえておきたいポイントは以上となります。

発想が出ないからといって、いつも環境を変えてばかりいるのは考え物ですが、現実逃避になりすぎないようにしつつ、「これ以上はダメだ!」と思ったらパッと環境を切り替えることもアイデア発想の上では大切です。その点では、旅行や外食などの非日常から、散歩、あるいは掃除洗濯といった家事まで、仕事「以外」の環境は、全てがアイデア発想に繋げることが可能ともいえます。「煮詰まったら、席を立とう」。まずはこのようなところからスタートすると良いのではないかと思います。参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓