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【書籍名】海賊と呼ばれた男(上)(下)
【著者】百田尚樹
【出版社】講談社

「あんた、それでも日本人か」・・・主人公の国岡鐵造が日本の官僚に向けて発した言葉です。

遅ればせながら、「海賊と呼ばれた男」を読みました。作者の百田尚樹さんは、テレビへの露出も多く、関西弁でよくしゃべる面白い方ですので、以前から彼の話を聞くのは好きでしたが、彼の書いた本を読むのは今回初めてでした。本書は、石油資源のない日本において、石油の安定供給に尽力した出光興産の創業者 出光佐三(いでみつさぞう)(1885~1981年)、 その生涯をモデルにしたドキュメント小説です。

正直、ここまで広い視野を持って日本の経済成長を目の当たりにし、実感できたのは初めてでした。本書は、日本の敗戦から始まります。上巻で主人公である国岡鐵造の人物像、また国岡商店という会社の経営理念を知り、(上巻の後半は、正直言うと、中だるみましたが・・・)下巻でクライマックスへ突入し、どんどんスケールも大きく、面白くなっていき、読むのが止まらなくなります。そして、涙も止まらなく。。。
商品が石油なので当然といえば当然なのかもしれませんが、太平洋戦争にしろ朝鮮戦争にしろ、戦前~戦時中~戦後と、この物語の背景には、常に戦争が付きまといます。そして、日本の官僚・GHQ・国際石油カルテル(メジャー)など石油をめぐる各国の政治的駆け引きなど近代史の勉強にもなりました。そして、なんといっても一番の魅力は、登場人物は、すべて実在し、国岡鐵造本人を始め、一人残らずとても人間臭いところではないでしょうか。ネタバレは嫌なので、あまり書きたくないけれど、私の好きだったエピソードを二つだけご紹介します。

まずは、日田重太郎とのエピソードです。国岡にとって生涯を通じての恩人となる人物です。とにかく、彼の存在なくして今の出光興産はなかったであろう人物なのですが、本書を読み終えた今となっては、「日田さんのような人がいてくれてホント良かったよね~」なんて、とてもじゃないですが、そんな安易な発想にはなりません。私としては、なによりも今の私たちの豊かな生活に感謝をし、石油産業はじめ日本経済の復興を支えてくれたすべての人に敬意を表したいと思いました。
次に、製油所を作るエピソードです。山口県の徳山に最初の精油所を建設することになるのですが、その請負業者との交渉の際に国岡からある注文がありました。それは、「見た目も美しい工場にしたい」というものでした。瀬戸内海に面したこの美しい光景は、住民たちのものであるべきで、日本国民の共通の財産だというのです。「この人は、こんなことまで・・・」と涙がでました。そして、2年はかかるといわれた建設作業を、国岡は10か月で達成するように言います。このとき、作業に携わった人たちが見せた団結力に人間の底力を見たし、これまでの国岡商店の苦難の歴史の集大成のようなものを感じました。

現代社会において、ビジネス、ビジネスとよく言われていますが、ビジネスってなんだろう、仕事とはなんだろう、会社とはなんだろう。本書を読んで、そんなことを深く考えさせられました。彼のやり方は、一般的な、いわゆる「商売」とは違います。その証拠に、物語の端々に、「そんなこと(金儲け)で言っているのではない。国民のためだ」というセリフがよく出てきます。そして、事実、彼は、生涯を通じて「儲けろ」とは一度も社員に言ったことはないと。「ここまでの大企業に成長して、こんな経営者いるんだ。」と驚きと感動でしたが、まさにビジネスの原点は、そこにあるのかもしれません。「人」のため。彼が、生涯大事にしたのは、「人」でした。もちろん経営者にとって必須であろう度胸や千里眼は当然持ち合わせていましたが、決してブレない日本人としての誇りを持って、その姿は見ていて心が痛くなるほど、「人」を一番に考えていました。そしてなにより、終戦直後、財産をすべて失ったとき、彼が絶望している社員に放った言葉は、「一番の財産がまだ残っているではないか」というものでした。「人財」です。多くの人が彼に魅了され、育ち、彼についてきた理由はここにあるのではないでしょうか。サムライ魂を持った創始者の半生を読み、単純に感化され(私のように?)、自分の中で人生を立ち返り、今を生きているビジネスの原点を一度考えてみるのも、たまにはいいものです。

【ジャンル】小説
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(担当:永田 優子