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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第三回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、言葉の「定義」の重要性についてのお話をしました。同じ言葉であっても、相手と自分の「定義」が異なれば、相手の疑問に答えるための「共通のツール」が存在しないことになります。結果として、論理的な話を組み立てる「前段階」でのハードルが上がってしまうので、言葉の定義については細心の注意を払う必要があるということでした。

今回のコラムからは、いよいよ論理思考の具体的な組み立て方についてのお話を始めていきたいと思います。今回は論理思考を考える上で最も大切なポイントである「人間の思考回路の基本構造」について、お話をしたいと思います。

まず、皆さんの身近にいる方で結構ですので、「話が分かりやすい人」のイメージを少し思い浮かべてみて下さい。どのような特色がありますでしょうか? 声の大きさや話す速度、身振り手振り等、色々な特色が出てくるかもしれませんが、おそらくその中には「言いたいことがはっきりしている」ということが必ず含まれているのではないかと思います。

逆に、「話が分かりにくい人」のイメージも考えてみると、もっと見えてくることがあると思います。話を分かりにくくさせてしまう原因もいろいろ考えられますが、共通しているのは「何が言いたいのかはっきりしない」という点かと思います。

では、「言いたいことがはっきりしている」「何が言いたいのかはっきりしない」この違いの根本的な理由は、どこにあるのでしょうか? 実は、「人間の思考回路の基本構造」こそが、この問いに対する答えなのです。

人間の思考回路は「ピラミッド構造」である

この事実を知っているだけで、論理思考を具体的に行う際のイメージが非常に沸きやすくなります。

上の図に示すように、人間の思考回路は基本的に「一番大切なこと」「一番根本的なこと」「一番言いたいこと」(図では「テーマ」が該当)を先に理解し、その後で「それはなぜ?」と考えることで、考え方を徐々に「掘り下げ」つつ、同時に「他には何かないか」と考えることで、考え方の「広がり」を持たせるようになっています。これを図示すると、テーマを最上段に置き、階層を掘り下げる度に、その階層に含まれる要素が多くなる「末広がり」の形状を採ることが分かります。この形状は「ピラミッド」に似ていますので、人間の思考回路は「ピラミッド構造である」と考えられるのです。

先程の例で採り上げた「言いたいことがはっきりしている」「何が言いたいのかはっきりしない」という違いは、まさにこの「ピラミッド構造」に則して話をしているか、していないかという点に起因するのですね。

「言いたいことがはっきりしている」と感じられる場合、その方の話の構成は、前述の図における「テーマ」→「キーポイント」→「理由」という順番で、「話の大きなまとまり」あるいは「結論」「大切なこと」から始まって、徐々に話の内容が詳細になっていくことが多いと思います。言い換えれば、ピラミッドを「上から下に」掘り下げるイメージで話をしていることになります。

逆に「何が言いたいのかはっきりしない」と感じられる場合は、ピラミッドの一番下の階層である「理由」をいくつか述べた後で、「だから言いたいことは○○です」のように、一つの上のキーポイント、さらにその上のテーマとたどって行くことが多いと思います。ピラミッドを「下から上に」登っていく、すなわち徐々に話の結論が見えてくるという流れで話をしているわけですね。

私も含め、多くの人が物事を考える際には、一般的には「事実・状況・理由」や「自身が感じたこと」から論点をスタートさせることが多いと思います。そして、それらの事象が「総合的に」何を意味するかを考え、結論を練り上げていくことが多いと思います。すなわち、ピラミッド構造であれば「下から上に」登っていく形で、思考を深化させるわけですね。

しかし、自身の思考を深化させることと、相手に分かりやすく「論理的に」伝えることは「全くの別物」です。相手に分かりやすく伝える際には、自身の思考深化のプロセスと「全く逆の流れ」で話をする必要があるのです。すなわち、先に結論や大切なことを述べ、その掘り下げを順次行っていくことで、「言いたいことの本質は何か」「その理由はなぜか」を順序立てて相手が理解しやすくすることが大切なのです。ピラミッド構造であれば「上から下に」掘り下げる形で、深化させた思考を再度逆にたどりながら、説明をするわけですね。

「何が言いたいのかはっきりしない」場合、おそらくは自分自身の思考深化の流れと全く同じ形で、相手にも説明をしているのだと思います。自分自身の思考がはっきり固まっていない(=結論を練り上げている最中)に話をしているのですから、相手も話の要点が見えにくいと感じるのは、ある意味で「当たり前」ですよね。もちろんですが、ブレインストーミング等の「アイデア出し」をする場面であれば、この思考進化のプロセスを複数人で行うことはあり得ます。ですが、自身の考えを「伝える」場面で、その考えを「練り上げながら」話をすることは、あまり効率的ではないことは容易にイメージできると思います。

まとめますと、論理思考を考える上での大切なポイントは、

人間の思考回路は「ピラミッド構造」である

また、

自身の考えを深めるプロセスと、それを分かりやすく伝えるプロセスは全くの別物である

ということになります。
是非、この「人間の思考回路」の特性を把握し、自身の思考深化、並びにそれを「相手に分かりやすく伝える」際に役立てていただければと思います。

(担当:佐藤 啓