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ビジネスパワーアップコラム<アイデア発想法編> 第九回

前回のアイデア発想法編コラムでは、アイデア発想の上での「引き算」の重要性をお話ししました。アイデア発想の基本は「足し算」となりますが、情報の足し合わせだけを考えると、かえってアイデアの本質がぼやけてしまうこともあります。そのため、

・情報の統合においては、「引き算」も「足し算」と同様に重要である
・足し算での情報の組み合わせをある程度考えた上で、次に引き算を考えてみる
・引き算を行う際は常に「アイデアの本質」を客観的に見据えた上で、余計な情報のそぎ落としを意識する

以上のポイントに留意し、足し算と引き算の発想が自由に行えるようにすることが、アイデア発想の効率を高める上では重要でした。

今回のコラムでは、情報の統合方法の3番目の方法である「かけ算」について説明したいと思います。

通常の算術演算でも、「足し算」「引き算」で得られる数値よりも「かけ算」で得られる数値の方が大きくなりやすいイメージがあると思います。情報の統合方法においても、「かけ算」を意識することで、アイデアをより大きく膨らませることが可能となります。言い換えれば

「かけ算」=「アイデアを大きく膨らませるためのキー情報」

というイメージとなります。私はこのキー情報について

・テクノロジー
・ネットワーク
・時系列

この3点が重要であると考えています。

「テクノロジー」はキー情報の中でも一番理解しやすい部分だと思います。例えば、ここ数年のインターネットの高速化とモバイル化、あるいはクラウドの普及により、一昔前では夢物語だった「どこでもビデオ通話」や「写真や動画などの瞬時の共有」「音声解析によるパーソナルアシスタント(Siriやiコンシェルなど)」が可能となっています。あるいは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた様々な臓器作成や治療に関する研究(直近では目の網膜再生にiPS細胞を用いる臨床研究を行うことが厚生労働省に認可されました)も、テクノロジーの効果に関するイメージを身近に感じさせる例でしょう。

このように、アイデアの根幹を成す情報にテクノロジーを掛け合わせることで、アイデアを様々な方向に広げることが可能となります。従って、ある程度大ざっぱでも構いませんので、最新のテクノロジーに関する知見は常に持ち合わせるようにしたいですし、可能であれば実際に「触ってみる」ことも大切なポイントとなります。

「ネットワーク」については先程のインターネットもその一部に含まれますが、より広義の「繋がり」という意味をここでは指します。一番分かりやすい例は「人と人との繋がり」です。一人で考えていた際には煮詰まっていたアイデアも、色々な人との「雑談」の中で「パッ」と何かがひらめくということは皆さんも経験があるのではないかと思います。あるいは、何かを行いたいと思った場合に、自分一人では難しいけれど、他の人の力を借りることで実現できるということも多くあります。

「他者の力」=「繋がりの力」をうまく生かすことで、自分自身が考えている「アイデア」に関連する情報の収集範囲を大きく広げられるだけでなく、アイデア実現の鍵となるリソースを実際に入手することも場合によっては可能となります。従って、アイデアを考える際には「誰と」「どこと」繋がったらよりアイデアが大きく広げられるかを常に意識することが重要です。

最後の「時系列」は、過去や現在の情報から、未来を想像することを意味します。経営者の中には「論語」等、中国の古典を愛読する人も多いですが、このような「過去の情報の蓄積」から、アイデア実現に関するヒントを得られることは多くあります。また、ソフトバンクの孫さんが「タイムマシン経営」と呼んだ「アメリカの最先端トレンドを日本に輸入する」モデルは、別の地域における「現在」の情報から、自分が活動する地域の「未来」を考えるためのヒントを得るモデルとも捉えることが出来ます。ここから考えると、例えば日本が世界最先端を走っている「少子高齢化」も、見方を変えれば「解決策を見いだせれば、将来、世界中に展開可能な千載一遇のチャンスとなる」と考えることも出来ます。

どのような内容であれ、アイデアは「今この瞬間」よりも先の「未来」に実現されるものですが、そのためには「時系列」を注意深く捉え、過去や現在の様々な情報や状況から「何か活かせることはないか」と考えることが重要です。その点ではやはり「本を読む」ことは「過去を知る」という点で非常に大切な手段になります。私の場合、直近では出光創業者の出光佐三をモデルとした小説「海賊と呼ばれた男」には、ビジネス上の様々なアイデアのヒントだけでなく、「経営者としてどうあるべきか」「人間としてどうあるべきか」を非常に多く教えられました。アイデアの引き出しが一気に増えたことを実感できた久々の本でした。上下2巻で700ページ以上ありますが、一気に読めますので、是非皆さんにもお薦めしたいです。

まとめますと、アイデアを発想する上では「効果的にアイデアを膨らませるためのキー情報」が存在し、具体的には

・テクノロジー
・ネットワーク
・時系列

この3点と、アイデアの基本となる情報を「掛け合わせる」ことが重要なポイントとなります。

アイデア発想の際には、まずは自分自身で「極限まで考える」ことが必要です。何も思いつかない段階、あるいは少し思いついた段階で誰か他の人に聞いてしまう、言い換えればすぐに外部の助けを借りようとすると、「自分で考える癖」が付かなくなります。従って、まずは「足し算」「引き算」を「自分で考える」ことがアイデア発想の上では大切です。一方で、自分自身だけでアイデアを考えていると、発想の広がりがどこかでストップしてしまうことも、また事実です。そのような場合は是非、今回の「かけ算」の発想で、「技術」「繋がり」「時系列」にヒントを得ることが出来ないかを考えてみていただければと思います。

(担当:佐藤 啓