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ビジネスパワーアップコラム<アイデア発想法編> 第十一回

前回のアイデア発想法編コラムでは、アイデア発想までの情報整理プロセスで意識すべき「連続性」についてのお話をしました。連続性とは簡単にいえば

「理想」と「現実」それぞれへの軸足の置き方

であり、言い換えれば

・理想=非連続=「出来たらいいな」を考えること
・現実=連続=「世の中のトレンド」を考えること

ということでした。アイデアを発想する上で、「行き詰まり」を感じてしまうことはよくありますが、その際にこの「連続性」に手がかりを求めることで新たな発想が浮かぶことが多くあり、従って

「連続性」とは、アイデア発想の上で常に立ち帰るべき「もう一つの原点」

とも考えることが出来る点を押さえておく必要がありました。

前回のコラムでは、「理想」についてのお話をしましたので、今回は「現実」についてのお話をしたいと思います。

皆さんは、2012年の1年間に日本の人口がどの程度減ったか、すぐにイメージできますでしょうか。2012年の1年間で、人口は約21万人減りました。日本全体の人口は約1億2,700万人程度ですので、21万人はもしかするとさほど大きな数字と思えないかもしれません。ですが、人口21万人の都市を想像すると、調布、つくば、松江くらいの規模となります。要は、1年間でこの程度の大きさの都市が丸ごと一つ消滅し、それが今後しばらくは続く、ということが、日本の人口動態の「現実」となります。

人口については、「減っている」という事実が分かったとしても、すぐに増やせるというものではありません。従って、人口動態及び予測については、現実からの「トレンド」=「傾向」を考える上で最も確実性の高い情報と考えることが出来ます。例えば、日本の人口の減少トレンド、並びにそれに伴う「少子高齢化」の進展というトレンドから考えると、労働人口の長期的な減少というトレンドもすぐに予測できます。そうなると、現在のGDPを今後も維持していくとするならば、「ITを活用した労働生産性の向上」や、「ロボットの導入による自動化」「海外からの労働力の輸入」などを検討しなければならないことも分かります。言い換えれば、これらの分野について新しいビジネスを立ち上げることが出来れば、将来的に発展する可能性が高いということになります。

一方で、日本だけでなく、世界の人口動態に目を転じてみましょう。国連のデータによれば、2011年に70億人を突破した世界人口は、2050年までに90億人を突破、21世紀末には100億人を超えるとされています。直近の2012年、2013年については、各1億人程度の伸びが見込まれるとのことで、日本国内では長期的な人口減少トレンドである一方、世界全体を考えると、毎年「日本が丸ごと一つ増えている」イメージであることが分かります。そうなると、「食料や水の不足」「エネルギーの不足」や、これらの資源不足に起因する「紛争の増加」が予見されます。このことから「食料や水をどのように確保するか」「エネルギー問題をどのように解決するか」といったテーマでビジネスや研究を行うことが今後ますます求められていくことが想像できると思います。

ちなみに、このようなトレンドを念頭に置いた研究で私自身が直近で面白いと思ったのは「3Dプリンタでピザを作る」という話でした。ピザと言っても、ショーケースに並んでいる見本のたぐいではなく、本当に「食べられる」ピザを3Dプリンタで作るという話なのですが、具体的には「炭水化物」「タンパク質」「脂肪」といった原材料を粉状にして、それらを3Dプリンタの技術で積み重ねていくことでピザを作り上げることにチャレンジしているとのことです。もしこのような話が実現すれば、原材料の確保や保管の選択肢が大幅に広がりますので、食糧問題の解決に一役買うことは間違いないでしょう。結果が非常に楽しみです。

このように、現在の状況とそこから想定される長期的な傾向=「世の中のトレンド」を考えると、ビジネスに限らず様々な場面でアイデアの発想に役立つことが分かると思います。言い換えれば、

「現状を冷静に見つめ、そこから何が起きるかを想像してみる」

ことが、現実からのトレンドを考える場合には必要であり、前回の「理想」と同様、現実を冷静に捉えることもアイデア発想においては重要な役割を果たすことがイメージできると思います。

理想は大切ですが、理想だけでは物事が進みにくいこともまた事実です。その際には是非「現実」を客観的に把握し、そこから「このまま進んだらどうなるか」を考えてみると、新たな視点が広がると思います。アイデア発想に行き詰まった際には、是非「今、何が起きているか」「そこから、この先に何が起きるのか」を冷静に考えてみることもお薦めしたいと思います。参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓