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【書籍名】Gene Mapper -full build-
【著者】藤井 太洋
【出版社】早川書房

「Gene Mapper」は、「Kindle等電子書籍におけるランキング1位」として一躍有名になりました。
その後文庫で刊行された本書は、電子版の倍近いボリュームに増補した完全版(full build)です。電子版では「小さい画面」を意識した短い文体でしたが、文庫では一文が長くなり、一人称視点に別の視点も付加され物語の奥行きが増しています。

近未来・遺伝子工学・バーチャルリアリティ・アジアのブラックマーケット・バイオハザード etc.
こういったガジェット満載の世界でスピード感あふれる物語進行、これが作品の魅力です。
しかしその底に流れるテーマは、決して未来の話でも別世界の話でもなく、今現在の私たちの世界と密接な関係があります。

科学や技術は、もろ刃の剣です。物語の中では、それに携わる人間によって世界の危機が訪れ、また解決したのも、それに携わる人間です。
実は藤井氏が執筆するきっかけとなったのは、東日本大震災とその後の報道に「科学技術についてきちんと説明し行動する」ことが足りないと感じたことだそうです。
本作の結末には、「技術の悪用や暴走を恐れて隠していてもいざ流出してしまえば止めることはできない、いっそ公開して全世界の人が見張りながら活用していく」という道が描かれています。そして登場人物は、『科学の恐怖をあおり立てても何も解決しない。交流によって生まれる豊かな未来に賭ける。』と語ります。

近未来の物語でありながら妙なリアリティがあるのは、作品中に現在のネットワークやプログラミングの言葉が多用されていることもあるのでしょう。

現代社会において、ネットワークやプログラミングなどのIT技術無くして日々の業務をこなすことは、難しい時代になっています。そして、目の前にあるIT技術も時には暴走し、日々の業務に大きな影響を及ぼすことがあります。そこでIT技術を恐れるのではなく、IT技術をいかに自らの知識として取り入れ、生かしていくのかが、これからは重要なのではないでしょうか。

ネットワークを通じたコミュニケーションによるビジネス風景を楽しみながら、いまここからの私達の未来を想像してみてはいかがでしょうか。

【ジャンル】SF、サイバーパンク
【関連・お勧め書籍】ニューロマンサー(ウィリアム・ギブスン)ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)

(担当:瀧川 仁子