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【書籍名】天地明察(てんちめいさつ)
【著者】冲方 丁(うぶかた とう)
【出版社】角川書店

数学は一般的に西洋で発展した分野のイメージがありますが、日本独自の「算術(和算)」が江戸時代には世界でも類を見ない発展を遂げていたことはご存じでしょうか。
問題を出しそれに対して挑戦をするという形式が広まり、神社仏閣に絵馬として奉納された問題には学者だけでなく市井の愛好家も挑戦する、という裾野の広がりようだったそうです。

今回ご紹介する「天地明察」の主人公は、「算術」に魅せられた実在の人物です。
しかし、彼の場合はただ趣味には終わらず、中国の文化が至高の時代に和製の暦を作るべく奔走し、一人の熱意が初の日本独自の暦を作り上げました。

冲方氏と言えば、ライトノベルでデビューし、ゲームや漫画の原作、SFといった分野での活躍が多い作家です。今回ご紹介する「天地明察」の元となる短編「日本改暦事情」は、SF専門誌に発表されました。氏の歴史小説としては、現在のところ他に「光圀伝」(水戸光圀)と「はなとゆめ」(清少納言)があります。どちらも(あまりにも有名すぎる)歴史上の人物の一生を、新たな視点で生き生きと描いています。

天地明察も含めこれら歴史小説3作品を読んで感じるのは、私たちが知っている「○○が□□をした」事実は、あくまで結果であるということです。一人の人間が毎日を生き、その中で様々な経験・思考・行動・失敗を繰り返したことだけが、事実です。ただその主人公達は、それぞれの一生を賭けた熱い「想い」を持ち、後世に残る一つのことを成し遂げました。

私たちが生きる現代は、夢や目標を持ちにくい時代と言われています。しかし、大きなまたは具体的な目標や夢を掲げなくても、自分の「想い」を持ち続けて毎日を生きて行くことは、確実に何かにつながるのでしょう。
好きなことや興味のあることを続ける・深める、毎日の仕事を頑張る、といった自分にできることが、いずれは結果を生む。そう信じていきたいです。

【ジャンル】時代・数学・囲碁・天文・SF
【関連・お勧め書籍】「光圀伝」「はなとゆめ」

(担当:瀧川 仁子

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【書籍名】デザインする思考力
【著者】 東大EMP (編集)、横山 禎徳 (編集)
【出版社】東京大学出版会

まず、私が本書を読むに至った背景をご説明しておきます。私は、数か月前、社長から「空間把握能力が低い!」とフィードバックされたことがあります。そんなことを言われたのも初めてで、知識不足の私は、「えー!パソコンの並べ方がそんなに雑でしたか?」くらいで、何の事だかピンときませんでした。
そして、最近になって、社長から「面白そうな本買っといたから~、読んでみて」との一方的な連絡が!そして、私の手元に送り付けられた(!)本こそが、今回ご紹介する「デザインする思考力」です。タイトルを見た私は、即座に、「あ。デザイン!私の苦手分野の克服のため?」と思い、少し嫌でしたね(笑)しかし、本書を読み終わった今では、結果的に、「デザイン」の意味とは、わたしが認識していたような単純で薄っぺらいものとは全く異なるもので、読んで良かったと素直に思える内容の本でした。

本書は、「知とデザイン」を大きなテーマに据え、デザインの専門家である著者横山氏をインタビュアーとし、世界レベルの研究者であり、東大EMP(東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)の講師でもある6名との対談形式になっています。彼らの研究の専門分野は、素粒子物理学、植物病理学、イスラム政治思想、情報通信工学、西洋経済史、有機合成化学と広範囲にわたっており、このように多彩な分野の中で、大量の情報を短時間に処理することよりも深く思考すること、本質を見極めることで解決策をデザインする力、すなわち組み立てる思考力を身につけることが重要であるとの横山氏の問題意識に基づき、6氏各々へのインタビューは進んでいきます。どれも自分が詳しくは知らない、けれど、社会生活をしていくうえで誰もが密接に関わっている世界を分かりやすく切り取って見せてくれていますので、それだけでもとても新鮮です。

中でも、私が特に興味深かったのは、有機合成化学の井上将行教授によるデザインの定義についてです。「分子の構造式は言語である。分子の結合の仕方にも文法がある(=ルールです)」を大前提とし、製薬研究者の視点で彼の話は始まりますが、私が個人的にマッチングした内容を大きく2点取り上げたいと思います。

まず1つ目は、ビジネスプロセスについてです。
彼は、「デザインとは、アナリシス(分析)に対してインテグレーション(統合)の作業である」と言っています。ただ、分析には方法論があり、たとえば経営コンサルティングの500手法を覚えて使えば、様々な分析は可能となります。一方、デザインには方法論がなく、しかも状況は日々変化していくため、分析のように「確立された手法を覚えてそれを適用していく」という流れを活かすことは難しいです。そのため、「Aがうまくいかないなら、Bで試してみてはどうだろう?」といったように仮説検証の繰り返しが必要となります。だからこそ、最初の仮説が行き詰まると、それを壊すプロセスが必要となります。すなわち、一度考えた仮説を壊し、そこから使えるものと使えないものを取捨選択して、新しい仮説に作り替え、それをさらに検証し、ブラッシュアップしていく作業が必要となるのです。彼は、化学者として、上記のことを言っていますが、彼のいう「デザインする」という仕組みは、まさにビジネスの組織にも言えることではないでしょうか。組織の規模に関わらず、「何かを壊し、新しく始めること」は大変なことです。ですが、現状維持では、何も起こらないし、進歩はないのです。研究分野では、打率は一割だそうです。九割当たらないからこそ、洗練され、そこから新しいことを始める(=デザイン)、ビジネスにおいても同様に置き換えることができる重要なプロセスではないでしょうか。

そして2つ目は、教育プロセスについてです。
彼は東大EMPの講師を兼任しているということもあり、学生に講義する立場にありますが、その手法においてもまさに「デザイン」をしているように感じました。
というのも、化学は前提条件が多すぎて、新しい言語を学ぶ覚悟がないとできないのです。英語などの言語を全く知らない場合は、まず文法などの基本的なルールを教えることから始めます。それと同様に、化学の場合は分子の結合の仕方にも「文法」があるのでそれを覚えることが大前提となります。その際のポイントは「伝え方」です。彼は化学式を伝える際に、学生が自身の知識や経験とどこかでうまく「リンクするようなに構成する」ことを意識しています。そのために、話の要点を基本的なレイヤーから専門的なレイヤーまでレベルに合わせて準備します。これこそが彼のいうところの「デザイン」の在り方を具現化したものだと私は思いました。
彼は有機合成化学が専門のため、本対談内では、いわゆる具体的な「亀の子」の話も出てきます。私事ではありますが、高校生の頃、無機化学までは化学の点数はよかったのに、有機化学に突入してから急に化学が苦手で嫌いになってしまいました。「亀の子」のあの記号を見せられたところで理屈がワカラナイからです。当時の化学の先生に、受け入れられない旨を話したところ、一言、「事実だから!!!」と言われたのを思い出しました。なるほど、文法(=ルール)ですね。あのときに、この本に出会っていたら・・・受け入れられたかも?と思ってなりません(笑)確かに、これまでの社会知識を踏まえた今だからこそ、ぐっと入ってくるのだろう、という感も否めませんが。そういう理由もあり、今「勉強すること」につまずきがちの中高生にぜひ読んでほしいとも思いました。

今回、インタビュアーの横山氏を含め、各分野での「知とデザイン」をテーマに話を聞いていく(対談形式のため、「読む」というより、話を「聞く」という感覚に近い)うちに、各々の分野でデザインの要領、捉え方、若干のニュアンスの違いはあるものの、私は私なりに、ビジネスマネジメントと教育プロセスについての「デザイン」を知識として得たような気がします。
いずれにしても、年代、職種問わず、知的好奇心をくすぐり、自分が何に興味があるのか、今置かれている状況の中で何ができるのか、を気付かせ、考えさせてくれる内容になっていますので、皆さんも、この機会にぜひ一度、自分なりの「デザインする」という感覚を掴んでみることをお勧めします。今後、職場で「デザイン」という言葉を多用してしまいそうです(笑)

(担当:永田 優子

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先日、「東京国際ブックフェア」に行ってきました。
電子書籍の紹介もありますがもちろん「本」が中心の様々なブースに、大勢の人が訪れていました。
また、作家・筒井康隆氏の講演を拝聴しました。創作歴60年ながらまだまだ第一線でご活躍の方のお話を伺うことのできる貴重な機会でした。
『「読書」の極意と掟』と題された講演および後半の朗読はとても興味深い内容でしたが、その中でとても心に残った言葉があります。
「今の若い人達は不幸である。書店にもAmazonにも、とにかく本が溢れていてどれを読めばいいかわからない。
自分の幼少時には、本は戦争で焼け読む物が少なかった。他に娯楽もなく、その少ない本をむさぼるように読んだ。」
本を読める幸せについて、あらためて実感しました。

前回まで三回にわたり、気軽に本を読むためのコツをご紹介してきました。
今回は、読んだ本をさらに楽しむためのヒントをいくつかご紹介します。
簡単に言うと、他の人にも「シェア」する方法です。

◆知人に話す、薦める
一番ポピュラーで、しかも簡単な方法です。
「最近読んだ○○、おもしろかったよ。」と雑談で話すこともあるでしょう。
または、その分野に興味のありそうな方に薦めることもあります。
読み終わった本なら貸してあげると、読みたい方にとってもうれしいです。

そしてその方が読んだ後は、共通の話題が生まれます。
話も盛り上がりますし、また自分とは違う視点での感想を知ることもでき、さらにその内容に対しての理解や興味が深まります。

◆ブログやSNSに書く
最近はこういった方法で情報発信をする方も多いのではないでしょうか。
同じ本を読んだ方や興味のある方からの返信もあり、新しい人とのつながりも生まれます。

◆読書会
一般的な読書会の形式は、指定された本または指定のテーマやジャンルに属する本を事前に読んでおき、集まった際にその感想や内容に関するディスカッションを行います。
固定されたメンバーのサークル活動として定期的に行っていることが多いですが、図書館やお店のイベントとして行われる場合など参加者をそのつど募集するものもあります。
自分が紹介したい本やテーマを持っていれば、周囲に声をかけて企画してみるのもいいかもしれません。

◆ビブリオバトル
大学などを中心にここ数年広まってきている読書会の一形式です。「書評合戦」とも言われます。
発表者数名と参加者(観客)で構成され、発表者は一人づつ決められた時間内に自分のお勧め本を紹介し、その後参加者と質疑応答を行います。
全ての発表が終了した後、参加者による「どの本が一番読みたくなったか」の投票を行い、一番多く票を集めた本が「チャンプ本」に決定されます。
学校などのクローズドな環境で行われる他に、書店や図書館等でイベントとして発表者と参加者を募集する場合もあります。
市民サークルも増えてきているようです。
ビブリオバトルには、自分の好きな本一冊だけ読めば発表者として参加でき、また参加者は通常の読書会と異なり事前に読んでおく必要がないのでより気軽に参加できます。

以上、読んだ本をシェアする方法をいくつかご紹介しましたが、いずれも単に本の内容だけに限らず人とのコミュニケーションにつながっていきます。
よく「読書は人生を豊かにする」と言いますが、人との新たな交流により楽しい時間を過ごすことができれば、まさにその通りです。
弊社書評が、皆様が楽しいひと時をお持ちになるための一助になれば幸いです。

(担当:瀧川 仁子

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前回は、「読みやすい本」のヒントをご紹介いたしました。
ある程度内容がわかっている本なら、読み慣れていなかったり時間がない状況でも挫折せずに読み進むことができるのでお勧めです。
ではその本を読み終わったら、次に読む本の選択です。

まず、お勧めは「続き」を読むことです。
同じシリーズの本では、主人公や登場人物が重なり世界観を同じくするため、前回読んだ本の知識が活かせて読みやすくなります。

たとえば、「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」は、ご存じの通りテレビドラマ「半沢直樹」の原作です。
この他に、単行本化された第3作「ロスジェネの逆襲」と現在連載中の第4作「銀翼のイカロス」があり、主人公が組織内外の人間関係や逆境を戦い抜く姿がシリーズを通して描かれています。
まずはテレビで興味を持ったので一冊目を読む、面白かったので二・三冊目を読むという楽しみ方ができます。

同じ著者の別の本を読むのもお勧めです。
映画「永遠の0」は、同名の原作本があります。また、同じ著者のベストセラーとして「海賊と呼ばれた男」も有名です。
どちらも人間ドキュメンタリーの体裁をとりながらも登場人物と時代背景が生き生きと描かれ、彼らが作ってくれた今の日本で、私たちの生きる意味を、あらためて考えさせられます。

もう一つのお勧めは「知識を深める」ことです。
その本の時代背景や人物についての資料になるような本を併せて読むと、ストーリーや地名、登場人物の人柄等についての知識を得ることができるため、物語世界をさらに重厚に感じることができるようになります。

たとえば、昨年公開の映画「清須会議」にも同名の原作本があります。
もちろん史実の清州会議を基にしていますので、柴田勝家や羽柴秀吉など登場する戦国武将について詳しい方も多いかと思います。
今まで興味がなかったためよく知らない方でも、映画や本で親しみがわいたら、ついでにこの時代を舞台にした小説や解説書に目を通してみてはいかがでしょうか。
この分野の書籍は特に多いので、さまざまな楽しみ方ができます。

こうして何冊か読んでいくうちに読むこと自体に慣れてきてスムーズになり、「次は何を読もうか」と楽しむ余裕も生まれて来るかと思います。
では次回は、「読んだ本をさらに楽しむ」ためのヒントをご紹介いたします。

(担当:瀧川 仁子

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前回は「本を読もう!」とのお勧めでしたが、そうは言ってもなかなか読書のための時間が取れず、読みだしてはみたもののなかなか読み切れず途中で投げ出してしまったという経験を持つ方もいらっしゃるでしょう。また、実際どんな本を選ぶべきかという悩みもあります。
今回は、「読みやすい本」のヒントをご紹介したいと思います。

よく「ビジネス文書は結論から書け」と言われます。「要点がわかりにくい」「結局何を言いたいのかわからない」メールや報告書は、読んでいて「イライラ」しませんか?

皆さんが小学校の作文の時間に指導されたことは「起承転結で書きなさい」だと思います。この書き方はビジネス文書には向いていません。エッセイや小説など「楽しみのために読む文書」向きです。

人間の脳は、道筋や目的地がわかっているとその内容も整理して格納できるため理解しやすくなります。しかし、目的地がわからないと、その一つ一つに考えこんでしまうため理解の効率が悪くなり「イライラ」しがちです。
ところが楽しみのために読む場合、それが「イライラ」ではなく「ワクワク、ドキドキ」に変わります。
これが小説を読む醍醐味ですが、読み慣れていなかったり時間がない状況では、楽しむ前に読むこと自体を挫折してしまう原因でもあります。

そこで、まずは「知っている本」から読み始めてはいかがでしょうか。
ある程度内容がわかっている状態で読み始めれば、地図なしで探検しているような不安もなくスムーズに作品世界を楽しむことができます。

たとえば、観たことのあるテレビ番組や映画の原作なら既にストーリーや登場人物が把握できている状態なので、物語の細部や映像との相違を楽しみながら読み進めることができます。
または、書評などで概要を知って興味のある本を読むこともお勧めです。弊社の書評がそのお役に立てば幸いです。

それでは、一冊目は「知っている本」から読み始めることにして、次回は「次に何を読むべきか」のヒントをご紹介いたします。

(担当:瀧川 仁子