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【書籍名】ハッカーと画家(コンピュータ時代の創始者たち)
【著者】Paul Graham
【出版社】オーム社/開発局

人生に衝撃を与える書籍と出会える機会は多くありません。一度手に入れたら何度も読み返して、自分の人生に生かして行きたいと私自身は思っています。今回、そんな斉藤による「人生に衝撃を与える書籍」シリーズの第一弾をお届けします。

「ハッカーと画家」という少し謎めいたタイトルですが、これは、「私が知っているあらゆる種類の人々のうちで、ハッカーと画家は一番よく似ている」と著者ポール・グラハム氏が考えるためです。タイトルにある「ハッカー」とは、著作では「優れたプログラマ」と定義しています。

この本は、現Yahoo!shoppingの前身、ブラウザをインターフェースに使った最初のWebアプリケーションを作ったポール・グラハム氏の自叙伝です。構成は20弱のエッセイで、オタク、思想、富の増やし方、芸術、ベンチャー、プログラミングと多岐にわたったトピックを通じて、天才ハッカーの頭の中を知る事ができます。
副題に「コンピュータ時代の創始者達」とあるように、多彩なトピックの要所要所には、Appleを立ち上げる前のスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのPR事務所から許可が出なかったため警察署から提供された写真が使われたビル・ゲイツなど、名だたる創始者達の若かりし頃のエピソードも数多く登場します。そのため、コンピュータに関するちょっとした小ネタ作りに、もってこいです。

この本を通じてポール・グラハム氏が述べている事は1つで、それは「試行錯誤しつつも、ものを創ることの素晴らしさ」です。試行錯誤を端的に表したエビソードとして以下があります。

「私は(略)・・・完璧なプログラムを辛抱づよく書き上げてこれで間違いないと確信するのではなく、とんでもなく出来損ないのコードをとにかく出してしまって、徐々に叩き直して形を整えることが多い。デバッグというのはタイプミスや見落としを拾うための最終関門だと教わった。私のやり方だと、プログラミングはデバッグの積み重ねのようなものだ」

天才と呼ばれるハッカーであっても、最初は出来損ないのコードを創る、という事実に親しみを感じました。また出来損ないのコードを完成まで押し上げる作業の間、熱い鉄を叩いて強くする刀鍛冶職人のように、情熱を失わずにコードと向き合う姿勢に職人魂を感じます。
私自身、現在Webアプリケーションの開発業務を行っていますが、最初考えた通りにプログラムが組める事はあまり多くなく、「出来損ないのコード」を何度か書き直して出来上がることの方が多いという現状があります。もちろんポール・グラハム氏のような天才と比べるようなレベルの話ではありませんが、もの創りの端くれとしては、情熱を持ってとにかく果敢にコードを書いていきなさい、という勇気をもらっています。

皆様も、自身のちょっとした情熱に気がつく時が、日常の業務中などであるのではないでしょうか。例えば、ちょっとしたショートカットやテクニックを覚えて使うと楽しく感じたりしますし、腰を据えて勉強した技術を使えば新しい世界が見えてきたりしますよね。そのような面白さは忙しい日常の中でつい忘れがちになりますが、本書を通して「ものを創る人」が享受する深い喜びを追体験して、自身の情熱の出所を再確認してみてはいかがでしょうか。

今や20版を越すというこの名著、何かを創りたいと考える全ての人におすすめです。

【ジャンル】コンピュータ思想、伝記

(担当:斉藤 万幾子