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ビジネスパワーアップコラム<プレゼン編> 第十回

前回のプレゼン編コラムでは、テーマの「本質」を考えることが、理解しやすく記憶に残りやすいプレゼンに繋がるというお話をしました。今回のコラムでは「理解」や「記憶」という点に関連し、「印象に残るプレゼン」のポイントについてのお話をしたいと思います。

2012年のビッグニュースの一つに、京都大学の山中教授がiPS細胞の研究に関してノーベル生理学・医学賞を受賞されたことが挙げられると私は思っていますが、山中教授の研究が進展するきっかけの一つとなったのは、国からの研究費獲得に関するプレゼンだったそうです。5年間で3億円の基礎研究費を獲得するためのプレゼンにおいて、山中教授は先行研究の問題点を「イラスト」にまとめ、iPS細胞研究の必要性を訴えました。このイラストのインパクトが審査員に伝わり、結果として現在の成果に至ったとのことです。

以下、2012年10月9日の読売新聞の記事からの抜粋です。

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 山中教授は2003年8月、iPS細胞の基礎研究に手応えを感じ、国の大型研究費を申請した。しかし、当時は本人の強い自負とは裏腹に、iPS細胞研究はまだ模索の段階だった。そこで、研究費配分の審査では、世界的に研究が先行していたES細胞(胚性幹細胞)の問題点をイラストにまとめ、「ES細胞に代わる新たな細胞を作る必要がある」と訴えた。

 イラストの図柄は、人の胚(受精卵が成長したもの)や腫瘍のできたマウスが涙を流す様子を描いていた。ES細胞の研究では、人間への応用を考えた場合、母胎で赤ちゃんに育つ胚を壊し、作らなければならないという倫理的な難問が立ちはだかっていた。移植した時に腫瘍ができやすい弱点もあり、それらが分かりやすく伝わった。

 山中教授は「今考えたら、よくこんな下手なイラストをお見せしたものだと冷や汗が出ます」と苦笑するが、審査担当だった岸本忠三・元大阪大学長は「イラストを使った説明には(説得する)迫力があった。(iPS細胞は)できるわけがないとは思ったが、『百に一つも当たればいい。こういう人から何か出てくるかもしれん。よし、応援したれ』という気になった」と高く評価した。
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肝心のイラストについては現在はニュース記事が削除されておりますので、ご興味をお持ちの方はgoogleの画像検索で「山中教授 イラスト」と調べていただければと思いますが、確かに「研究の大切さ」が一目で伝わるインパクトを持っていると私も思います。私自身は絵心が全くないのでこれまではイラストを使わずにプレゼンを行ってきましたが、イラストの重要性について改めて考えさせられる記事でした。

イラスト等、プレゼンにおける「視覚情報」の重要性を考える上では、人間が情報処理をする上での「知覚器官」の活用度が一つの参考になると思います。人間の五感による知覚の割合をパーセントで表すと、

視覚:83%
聴覚:11%
嗅覚:3.5%
触覚:1.5%
味覚:1.0%

との研究結果があります(「産業教育機器システム便覧」日科技連出版社 1972年)。言い換えれば、目で見る情報は耳から入る情報よりも8倍近いインパクトがある、ということになります。

スティーブ・ジョブズは「プレゼンの名手」として誰もが名前を思い浮かべる一人ではないかと思いますが、考えてみれば彼のプレゼンも「イメージ」中心で、文字の量が少ないことが特徴でした。ジョブズのプレゼンの場合はイラストではなく「写真」が中心でしたが、いずれにしても「文字」よりも「イメージ」を重視している点は、山中教授のプレゼンと共通する部分かと思います。

プレゼン資料の作成においてはパワーポイントを使用することが多いと思いますが、パワーポイントの標準的な画面構成が「箇条書き」であることと、イメージやイラストを活用するよりも「文字のみ」で表現する方が作成側としては容易ですので、どうしても「文字中心」の「読ませる」プレゼン資料を作成することがパワーポイント使用時には多くなってしまうのではないかと私は思っています。

一方で、山中教授やジョブズの例に示した通り、「印象に残るプレゼン」では、イラストやイメージといった「視覚情報」を活用していることが多いのですね。私自身もここ数年のプレゼンでは「文字」を極力減らし、イメージを活用することが多くなりました。文字を利用する場合も、フォントサイズは「80ポイント」以上を原則とし、文字数を削減して「必要最低限」の文字情報のみを掲載するようにしています。

このように、印象に残るプレゼンを考える際のポイントの一つは、「視覚情報」を活用し、文字による説明はできる限り避けることになります。文字の多い「読ませる」プレゼンから、視覚情報を活用した「見てパッと分かるプレゼン」に移行することで、プレゼンの成功確率を高めることが可能となります。是非参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓