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【書籍名】「考える力」をつける本
【著者】轡田隆史
【出版社】三笠書房

著者の轡田隆史さんは、東京都出身のジャーナリストで元朝日新聞論説委員をしていた方ですが、今回、そんな著者の経歴を知らずに読み始めた私は、本書がいわゆる、ビジネス書・How to本とも一味違っていると感じ、読み進めていくうちに、著者の書いていることに対し「なるほど」と思いました。

本書は「問い」と「考え方」について、「読書」と「書くこと」という視点から、根本的に、広義的に書いてあります。

人は、社会人になったとき、「新聞を読みなさい」「ニュースを見なさい」とよく言われますが、その理由はなんでしょうか。「社会に出て恥ずかしくないため。」とよく言われますが、社会に出て恥ずかしくないとは、どういったことでしょうか。

私たちは、社会人になったときに初めて、自立を必要とされる組織の一員になります。そして、その組織の中で試行錯誤し、成功や挫折を繰り返していきます。社会人になり、組織の中で本当の意味で自立していくために、「知識」は最強の武器になります。当然、一般的なビジネスにしてみても、大切なのは、コミュニケーション能力であるということは周知の事実でしょう。コミュニケーション能力を発展させていくために必要なのは「知識」であり、しかも深い知識です。「知識」をより深めていくためには、異質性との比較、つまり、異文化を知ること、それは、歴史を学ぶということにつながっていきます。上っ面だけの知識であれば、先は見えてしまっています。

わかりやすくいえば、会話がもちません。最大の問題は、私たち自身にさほどその自覚がなく、実は「考える」ことすらできていないということ。会話がもたないのは、単なる話下手だと思っているという点です。とはいえ、「考える」といっても、簡単なことではありません。本当の意味での考えるということは、「探す」「問う」ことだからです。

何かを学ぼうとするときに大切なのは、その「姿勢」ではないでしょうか。例えば、私もこうして書評を書く機会に恵まれていますが、数読んでいると、正直に言って、つまらないと思う本にも出会います。もちろん、最初の数ページだけ読んで、その時点で判断ができるのであれば、見切りをつけて読むのをやめてしまうのもありでしょう。しかし私は、せっかく出会ったからには、何か学ぼうと思うようにしています。要は深堀「なぜ?なぜ?」です。「この人(著者)は、なんでこのテーマを選んだのだろう?」または「なぜ、私はこの人の言っていることをくだらないと感じるのか」。そうすることで、一人でも本を通じて対話ができます。読書は、一方的には読むものではなく、著者と対話をすることによって、得るものは確実にあります。そこで、対話を通じて「考える」ためのその具体的な方法として、著者は「書くこと」を薦めており、まさにそのとおりだと思います。

しかし、実際に思ったままを、文章にしてみてください。なかなか書けるものではありません。そこで著者は言っています。頭に浮かんだ「思ったこと」「感じたこと」を一瞬停止させて、文字に変換しようとする時点で、それは、抽象的な存在から具体的な「目で見る」ものへと変わっていく、つまり、客観的に観察することになるというのです。なるほど、確かにそう言われるとその通りですね。おもしろいです。
何もしなければ、ほぼ何も起こらない日常です。何も変わりません。まずは、頭の中のこうした状況を知り、効率的な頭の使い方を手にしていくことによって、自分自身の中での、より具体化された「新しい未来」が見えてくるのではないでしょうか。本書では、その手段・方法を、時間を自分のものにする方法、情報の生かし方、質問の仕方、自分の殻の破り方など幅広い視点で具体的に教えてくれています。そして、私自身、このような視点をもって、ゆっくり腰を据えて誰かと会話してみると、なにか面白い刺激があるかもしれないと少しわくわくするようになりました。

特に、一般的なビジネスにおいて、社内でも社外でも会話力は必須です。本書は、頭の引き出しの単純整理しながら、読んでいくうちにすっきりしていく感覚が味わえるような、人生そのものを豊かにするヒントがたくさん詰まった良書であるとともに、実践的に役立つ手法が学べる、広い意味でのビジネス書といえるでしょう。

【ジャンル】ビジネス
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(担当:永田 優子