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【書籍名】オレたちバブル入行組
【著者】池井戸 潤
【出版社】文春文庫

この書籍名を知らない方でも「半沢直樹」と聞けば、どこかで聞いたことがあると思うのではないでしょうか。TBS系列で2013年の7月から放送されると、すぐに話題になり、第7話では視聴率が30%を超える、大ヒットドラマの「半沢直樹」。この原作が今回ご紹介する「オレたちバブル入行組」になります。ドラマでは、続編の「オレたち花のバブル組」と合わせて1クールとして構成されており、ドラマでは前半部分となる原作についてお話ししたいと思います。

ここまで書いたところで、残念ながら私はドラマを見ていません。書店で話題になっている本を手に取ったのがきっかけで、原作が先になってしまいました。もちろん原作を読んで、堺雅人が演じる半沢直樹をぜひとも見てみたいと思い、毎週録りためていますが、ドラマを見るとなるとなかなか時間が取れない状況です。そのため、今回は原作を読んで思った事を書きたいと思います。

本書は「半沢直樹」という人物がバブルの最盛期に大手都市銀行に入行し、バブル崩壊を経験しつつ、銀行という組織の中で組織の理論や関係者の立場に振り回されながら、自分の信じた道を突き進む話で、読み終えた後に、スカッとするような構成になっています

ドラマを見て、これから原作本を読もうと思っている方や、私の様にこれから録りためたドラマを一気に見たいと思っている方も居ると思いますので、内容についてはこれくらいにとどめておきます。そこで、この物語で色濃く出ている、所属する組織によって変わる、人の感情や人の行動について考えてみたいと思います。

皆さんにとって所属している会社、所属している部署というのは大きな後ろ盾であり、愛着のある・無しに関わらず、何らかの恩恵を受けている事と思います。そのため、所属の違う人と話したり仕事をする時には、同じ所属の人たちの立場をどこかで考えて行動する事が多くないでしょうか?

この物語の中でも、所属している会社、所属している部署にとって良かれと思い、倫理的・道義的におかしい事でも、所属している組織にとって正しいと思ったことを実行に移してしまう人が多く書かれています。それぞれの立場に立って行動を考えてみると、とても興味深いと思うのですが、個人が所属する組織という単位に変わって行くときに、組織がとても良くなるパターンと悪くなるパターンがあるのだと改めて思いました

私がシステム開発のリーダーをする時に「どうやったら自分のチームパフォーマンスが良くなるのか」を考えています。そして、自分のチームだけではなく、関係者を含めたプロジェクト全体として、「最終的にどうなるのが最も良いのか」を意識するようにしています。
特にトラブルが発生した時には、客観的に事態を捉えるようにし、自チームだけを考えるのではなく、全体を捉えるように意識して動く事で、最終的に自チームのパフォーマンス向上にも繋がってくると思っています。

組織というのは、どういう形であっても階層が存在します。そこで、自らが所属している組織の自分の立ち位置だけで物事を見るのではなく、違う階層に立った時に、どのように自分が見えるか、また、自分の所属している組織がどのように見えるのかを意識して見てはいかがでしょうか。目の前の業務が少し視点が変わるだけで、今までとは違った「感情」で業務ができるようになります。

実際には、なかなか簡単にできるものではありませんので、常日頃から、自らの立ち位置を変えて物事を見るような意識をして、訓練をしてみると良いでしょう。訓練というと大げさかもしれませんが、何も意識せずに日々の業務を実施しているよりも、少しでも意識することで、違った見方ができるようになれば、ラッキーくらいの気持ちでも良いと思います。

本コラムを執筆している私も少し気を抜くと、すぐに目の前の事だけしか見えなくなってしまい、気分的にも落ち込むことがあるので、常に物事を見るときには、いろいろな立場で見るように意識するようにしています。

「半沢直樹」は常に自分の信念に基づいて行動しており、時には強引すぎる行動もありますが、その信念は目の前のトラブルに対して自分の立場や組織だけに囚われず、組織に対する違う階層から、そしてバンカーとして事象を考えることで、自らの信念を通す事が出来るのではないかと思います。

本書の紹介というよりも組織や物事の考え方に関するお話になってしまいましたが、本書を読んだ後のスカッとするような感じはぜひ味わっていただければと思います。

本コラムが、読者の皆さんの日々の業務に役立てば幸いです。

【ジャンル】ビジネス、経済、社会小説
【関連・お勧め書籍】オレたち花のバブル組ロスジェネの逆襲

(担当:小口 真己

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【書籍名】Gene Mapper -full build-
【著者】藤井 太洋
【出版社】早川書房

「Gene Mapper」は、「Kindle等電子書籍におけるランキング1位」として一躍有名になりました。
その後文庫で刊行された本書は、電子版の倍近いボリュームに増補した完全版(full build)です。電子版では「小さい画面」を意識した短い文体でしたが、文庫では一文が長くなり、一人称視点に別の視点も付加され物語の奥行きが増しています。

近未来・遺伝子工学・バーチャルリアリティ・アジアのブラックマーケット・バイオハザード etc.
こういったガジェット満載の世界でスピード感あふれる物語進行、これが作品の魅力です。
しかしその底に流れるテーマは、決して未来の話でも別世界の話でもなく、今現在の私たちの世界と密接な関係があります。

科学や技術は、もろ刃の剣です。物語の中では、それに携わる人間によって世界の危機が訪れ、また解決したのも、それに携わる人間です。
実は藤井氏が執筆するきっかけとなったのは、東日本大震災とその後の報道に「科学技術についてきちんと説明し行動する」ことが足りないと感じたことだそうです。
本作の結末には、「技術の悪用や暴走を恐れて隠していてもいざ流出してしまえば止めることはできない、いっそ公開して全世界の人が見張りながら活用していく」という道が描かれています。そして登場人物は、『科学の恐怖をあおり立てても何も解決しない。交流によって生まれる豊かな未来に賭ける。』と語ります。

近未来の物語でありながら妙なリアリティがあるのは、作品中に現在のネットワークやプログラミングの言葉が多用されていることもあるのでしょう。

現代社会において、ネットワークやプログラミングなどのIT技術無くして日々の業務をこなすことは、難しい時代になっています。そして、目の前にあるIT技術も時には暴走し、日々の業務に大きな影響を及ぼすことがあります。そこでIT技術を恐れるのではなく、IT技術をいかに自らの知識として取り入れ、生かしていくのかが、これからは重要なのではないでしょうか。

ネットワークを通じたコミュニケーションによるビジネス風景を楽しみながら、いまここからの私達の未来を想像してみてはいかがでしょうか。

【ジャンル】SF、サイバーパンク
【関連・お勧め書籍】ニューロマンサー(ウィリアム・ギブスン)ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)

(担当:瀧川 仁子

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【書籍名】LEAN IN
【著者】シェリル・サンドバーグ
【出版社】日本経済新聞出版社

兼ねてから話題となっていたシェリル・サンドバーグ著書「LEAN IN」を読んでみました。Facebook COOと言えば、お分かりになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ポートレートのような表紙が印象的なあの書籍です。

ハーバード大学卒~世界銀行~マッキンゼー~グーグル~フェイスブック・・・輝かしい経歴を持つ彼女の女性リーダー論かと思うと、少し近寄りがたい気もしていましたし、「主張が結局エリートの女性にしか当てはまらない」・「今苦しんでいる女性に対してこれ以上踏み出せというのか!」など賛否両論あるようです。
彼女も、おそらく上記の批判を予測していたのでしょうか。本の中には、昔の失敗談・苦労話がたくさんあり、働き方へのアドバイスとして、アメリカでの様々なリサーチ結果をベースとしています。

私自身も読み始めの段階では、「え?ワーキングマザーの本?」「単なるエリートフェミニスト?」と、シングルで働く身としては、消沈しかけたのも正直、本当です。「本まで出版して、彼女は読者に何を伝えたいのか?」・・・

こうして読んでいくうちに、働き方もまったく違う、しかも雲の上の存在のはずの彼女の話には、とても共感でき、アドバイスは説得力のあるものだと実感させられます。
(ネタバレになってしまうので、ここでは書きませんが、各エピソードが、ボスのザッカーバーグ含め、実名入りで書かれている点も面白いです。そして彼女の苦労話は本当にかわいらしく思え、思わず笑ってしまいます。その自分をさらけ出す姿勢が、また憎めない!)

そして、私は気付きます。
サンドバーグが言いたかったのは、「女性みんなが仕事と育児を両立すべきだ!」「女性管理職が少ないから今の社会はいつまでたってもよくならない!」「女性だからって遠慮しないで交渉しなさい、そしてTOPに上り詰めれば、仕事・家庭すべてを手に入れられるのよ!」・・・というようなことでは決してありません。

「Lean In」・・・「一歩踏み出せ」

全てを手に入れるなんて無理である、ただ自らチャンスを棒に振らないで。どんな立場の女性でも(男性でも)、人生の選択は自分でする、ということ。周囲の環境や状況・立場に関係なく、です。
ジェンダー・バイアス(性差に関する偏見や固定観念)やダブル・スタンダード(対象によって異なる二重基準)を捨てること、そして、誰もが、本当にしたいことを見つけ、自由な選択をし、一歩踏み出すことができる社会をつくることが重要だと言っています。

私なりに、こんなメッセージを受け取りました。
状況や立場・タイミングに応じ様々な受け取り方があるでしょうが、どんな状況でも互いに理解して助け合えるきっかけになる良書なので、職場や家庭で読んでみていただきたいと思います。

※ちなみに、彼女が紹介しているエピソードの中にTEDがでてきます。そもそもTEDでのプレゼンを元に作られた書籍なのですが、200万回以上再生されたという実際の彼女のプレゼンを見てみることも併せてぜひおすすめします。TEDとは、アメリカで年1回行われている大規模な世界的講演会を主催しているグループのことで、その様子はインターネットで無料公開されています。TED自体、傍聴しているだけでも気分がアガリますよ!

【ジャンル】ビジネス
【関連・お勧め書籍】
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(担当:永田 優子