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個人的な話で恐縮ですが、私は最近「子供を本に親しませる」活動に協力しています。
子供向けのイベントで本を紹介したり、小学校に書籍を寄贈するなど、子供たちに興味を持って本を読んでもらえるにはどうしたら良いかを模索しています。
そういった活動の中で、「親が本を読まないと子供も読まない確率は高い」という話が出ました。子供に本を買い与えたり薦める立場である親の影響は大きいと思われます。

忙しい大人としては、なかなか本を読む時間は取れないものです。その中で取捨選択していくため、まずは仕事で必要な本から、そして楽しみのための本は後回しになってしまいます。
今回は、その後回しになりそのまま読まなくなってしまいがちな「本」を、敢えて読もうというお勧めです。

読書の効能としてよく挙げられるのは、「知識が身に着く」「感性が豊かになる」「語彙力が豊富になる」といったところです。
知識と語彙力については仕事に役立ちそうですが、「感性」については特に今さら…と思われがちです。しかし、大人になっても「感性」を磨いたり成長することはできるものです。

小説には多数の登場人物が描かれます。一人一人異なる立場の人物を把握し理解しなければならないのは現実と同様ですが、小説の中では現実の世界では見えない他の人物の行動や内面が語られ容易に把握することができます。多様な価値観を受け入れ他者を理解することや客観的な視点を持つことは、オンでもオフでもコミュニケーションに役立ちます。
また、小説の結末が最初からわかっていてはおもしろくありません。既に語られた情報から想像し読み進むところにおもしろさがあります。つまり、「分析」し「予想」し「先を読む」訓練にもなります。

実は読書は、「ストレス解消」にも非常に効果的です。
日常の仕事や人間関係を離れてどこかでリラックスしたい!と思ってもなかなかできることではありません。読書をすることで、時間とお金をさほどかけずに心の中で別世界へと旅立つことができます。

さて、せっかく「本を読む!」と決意しても、なかなか読書のための時間が取れず、また読みだしてはみたもののなかなか読み切れず途中で投げ出してしまったという経験を持つ方もいらっしゃるでしょう。
または、書店に行ってみたものの実際どんな本を読むべきかという悩みもあります。
次回は、「読みやすい」本についてご紹介したいと思います。

(担当:瀧川 仁子

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【書籍名】永遠の0
【著者】百田 尚樹
【出版社】講談社

「海賊と呼ばれた男」を読んで以来、同じ百田さんの作品の中でもずっと読みたかった「永遠の0」を読み終えました。終戦から60年後、義理の祖父を持つ姉弟が祖母の死をきっかけに、神風特攻で亡くなったという実の祖父の事を調べていくことになります。「戦友会」を頼りに当時の祖父を知る生き残りの元軍人たちに会いにいき、彼らそれぞれの回想によって「特攻で死んだ」以外に何の情報もなかった祖父の実像に迫っていきます。緻密に描かれた航空隊の最前線、過去と現代が交錯するストーリー、まるで点と線が交わるように真実が明らかになっていくラスト。タイトルの「0」ってなんだろう?タイトルを知ったとき、漠然とそんなことを思っていました。読んでいる最中は夢中で当初の疑問を忘れてしまっていましたが、最終章でその意味が解りページをめくる手が止まり思わずはっとします。国家や生に対しての、生々しいまでの執着を通して描かれる登場人物の人間的魅力ももちろんですが、真珠湾以降の戦況についてかなり詳しく書かれているドキュメンタリー的なフィクションで小説として最初から最後まで本当によくできた作品でした。

「生きて家族のもとに帰りたい」「死ぬな」「生きる努力をしろ」
太平洋戦争時、当時の軍人には決して許されないことを口にする零戦の敏腕パイロット宮部久蔵、彼が「特攻で死んだ」実の祖父です。そんな彼が、最後は神風特攻として米艦に突っ込み戻ってくることはありませんでした。なぜ、生きて帰ることへ執着していた彼が最後の最後で特攻を志願したのか。そして、それでも彼は最後の最後で未来永劫に愛する家族を守るということを実現しています。

本当は誰もが「生きたかった」当時の軍人たちに、究極の状況下で施された「教育」とはどのようなものだったのかを知ると感慨深いものがあります。現代では、戦争については既成事実・結果を時系列に追うことが教育に使われているのがほとんどで、自発的に望まない限り複雑な背景や事情といった情報は入ってきません。戦後に生まれた人間として、それでいいのでしょうか。私は戦争体験者が今の時代から完全にいなくなってしまうのがとても不安です。その不安は、大人になり見守ってくれていた親から自立し単身で家を出るときにある程度の覚悟がいることと似ている気がします。一国民として「自国に責任を持つこと」に対する覚悟です。日本人としての責任を考えたとき、未来の「教育」について思いを馳せずにはいられません。資源のない日本は、戦時中、人間そのものが資源、いわゆる兵器として扱われていました。それが当然だと教育されていたし、軍人たちは皆、自分たちは無駄死にではないと言い聞かせ、お国のため死ぬ意味を見つけ死んでいきました。それだけ「教育」が持つ力は大きいのです。それ故に私は「教育」の怖さを改めて感じました。

私たち個人ができることは、たかだか69年前まで日本も血を流して戦っていたという事実を忘れないこと、次の時代に受け継いでいくこと、そして戦争を無駄にしないこと。その未来への「教育」に少しでも加担することではないでしょうか。本書はフィクションですので、当時の特攻の様子や戦況について描かれていることだけがすべてだとは思っていません。ただ、「教育」において知識欲を刺激することが第一フェーズであり、真偽は別としても本書はまずはその一歩に最適ですので、ぜひ読んでみていただきたいと思います。

※原作を読み終えてから時間を空けることなく映画を観に行きました。最初から「読んだら映画を観よう」と決めていました。オープニングはゼロ戦の戦闘シーンでした。もし原作を読んでいなかったら零戦を単なる被写体として見て、青空の中飛んでいる姿を「きれいだ」と思ったかもしれませんが、原作を読みその中に乗り込んでいる軍人たちのことを知ってしまっている私としては、姿を見るだけで胸が締め付けられました。原作は長編のため映画ではかなり端折ってあり、中身は薄くて物足りまりませんが、映像としては素晴らしく、特に宮部久蔵を演じた俳優:岡田准一の演技はただひたすらに圧巻です!

(担当:永田 優子

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【書籍名】「考える力」をつける本
【著者】轡田隆史
【出版社】三笠書房

著者の轡田隆史さんは、東京都出身のジャーナリストで元朝日新聞論説委員をしていた方ですが、今回、そんな著者の経歴を知らずに読み始めた私は、本書がいわゆる、ビジネス書・How to本とも一味違っていると感じ、読み進めていくうちに、著者の書いていることに対し「なるほど」と思いました。

本書は「問い」と「考え方」について、「読書」と「書くこと」という視点から、根本的に、広義的に書いてあります。

人は、社会人になったとき、「新聞を読みなさい」「ニュースを見なさい」とよく言われますが、その理由はなんでしょうか。「社会に出て恥ずかしくないため。」とよく言われますが、社会に出て恥ずかしくないとは、どういったことでしょうか。

私たちは、社会人になったときに初めて、自立を必要とされる組織の一員になります。そして、その組織の中で試行錯誤し、成功や挫折を繰り返していきます。社会人になり、組織の中で本当の意味で自立していくために、「知識」は最強の武器になります。当然、一般的なビジネスにしてみても、大切なのは、コミュニケーション能力であるということは周知の事実でしょう。コミュニケーション能力を発展させていくために必要なのは「知識」であり、しかも深い知識です。「知識」をより深めていくためには、異質性との比較、つまり、異文化を知ること、それは、歴史を学ぶということにつながっていきます。上っ面だけの知識であれば、先は見えてしまっています。

わかりやすくいえば、会話がもちません。最大の問題は、私たち自身にさほどその自覚がなく、実は「考える」ことすらできていないということ。会話がもたないのは、単なる話下手だと思っているという点です。とはいえ、「考える」といっても、簡単なことではありません。本当の意味での考えるということは、「探す」「問う」ことだからです。

何かを学ぼうとするときに大切なのは、その「姿勢」ではないでしょうか。例えば、私もこうして書評を書く機会に恵まれていますが、数読んでいると、正直に言って、つまらないと思う本にも出会います。もちろん、最初の数ページだけ読んで、その時点で判断ができるのであれば、見切りをつけて読むのをやめてしまうのもありでしょう。しかし私は、せっかく出会ったからには、何か学ぼうと思うようにしています。要は深堀「なぜ?なぜ?」です。「この人(著者)は、なんでこのテーマを選んだのだろう?」または「なぜ、私はこの人の言っていることをくだらないと感じるのか」。そうすることで、一人でも本を通じて対話ができます。読書は、一方的には読むものではなく、著者と対話をすることによって、得るものは確実にあります。そこで、対話を通じて「考える」ためのその具体的な方法として、著者は「書くこと」を薦めており、まさにそのとおりだと思います。

しかし、実際に思ったままを、文章にしてみてください。なかなか書けるものではありません。そこで著者は言っています。頭に浮かんだ「思ったこと」「感じたこと」を一瞬停止させて、文字に変換しようとする時点で、それは、抽象的な存在から具体的な「目で見る」ものへと変わっていく、つまり、客観的に観察することになるというのです。なるほど、確かにそう言われるとその通りですね。おもしろいです。
何もしなければ、ほぼ何も起こらない日常です。何も変わりません。まずは、頭の中のこうした状況を知り、効率的な頭の使い方を手にしていくことによって、自分自身の中での、より具体化された「新しい未来」が見えてくるのではないでしょうか。本書では、その手段・方法を、時間を自分のものにする方法、情報の生かし方、質問の仕方、自分の殻の破り方など幅広い視点で具体的に教えてくれています。そして、私自身、このような視点をもって、ゆっくり腰を据えて誰かと会話してみると、なにか面白い刺激があるかもしれないと少しわくわくするようになりました。

特に、一般的なビジネスにおいて、社内でも社外でも会話力は必須です。本書は、頭の引き出しの単純整理しながら、読んでいくうちにすっきりしていく感覚が味わえるような、人生そのものを豊かにするヒントがたくさん詰まった良書であるとともに、実践的に役立つ手法が学べる、広い意味でのビジネス書といえるでしょう。

【ジャンル】ビジネス
【関連・お勧め書籍】
・白旗伝記(松本健一)
・1000冊読む!読書術(轡田隆史)

(担当:永田 優子

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【書籍名】花神(上)(中)(下)
【著者】司馬 遼太郎
【出版社】新潮文庫

今回は書評の題材となる書籍の選択に、とても迷いました。そこで、最近の本ではなく、昔の歴史小説をご紹介したいと思います。

この本は、叔父に進められて手に取った、私にとって初めての司馬遼太郎さんの本です。司馬遼太郎さんと言えば、数多くの本を残されており、中でも幕末を中心とする歴史小説を多く書かれています。数多くの有名な幕末の登場人物の中でも本書「花神」の主人公である「大村益次郎」はあまり有名な部類には入らないのではないでしょうか。
そう思って、何気なくインターネットで調べてみたら、本書が30年以上前に大河ドラマとなっていたのでびっくりしました。

本書は3巻構成となっていますが、最初は上巻を読むのがとても大変だった事を今でも覚えています。単調というか平凡な話で、淡々と物語が進んでいき、途中で読むことを止めようと思いました。ですが、中巻に入り読み進めていくと、いつの間にか引き込まれてしまい、そこからは一気に最後まで読んでしまいました。

「村田蔵六(大村益次郎)」は、長州の周防国(現在の山口県山口市)の百姓として生まれますが、学問によって、医者、翻訳家(技術者)、そして最後は官軍の軍部における最高の地位に就くという、とても不思議な人生を送った人です。農家の出でありながら、本で読んだ知識を元に軍を動かし勝利を勝ち取っていった歴史は、とても興味深く思いました。

そして、西洋の文字を読める村田蔵六が西洋の本を頼りに蒸気船を作っていくさまは、新しい技術にチャレンジする人々に通じるものがあると思います。コンピュータや携帯電話の普及により仕事の仕方が大きく変わり、スマートフォンやタブレットなどの普及により、さらに仕事の形態が大きく変わっていく現代において、この新しい事を取り入れる合理的な考え方は、通じるものがあると感じました。

本書の中で作者である司馬遼太郎さんは「大革命とは、思想家が精神的支柱を作り、策略家が押し進め、技術者が仕上げることである。」と書いています。とても合理的な考え方の持ち主である村田蔵六は、技術者として、実務家として、革命の最後を仕上げていきます。この3段階の流れは今のビジネスにも通用するのではないでしょうか。こういうサービスを提供したい、この様な商品が欲しいなどの、思いが最初は先行し、次に具体性を持ったサービスや商品を考え設計し、最後にこれらを実現する。

もちろん、どの段階に関わる人であっても、それぞれが重要な役割を担っています。しかし、しっかりと地に足を付けて実務をこなす実務者が居るからこそ、思いが達成されるのではないかと改めて実感しました。

幕末に興味がある方はもちろん、幕末の技術革新や、本を読むこと学ぶことの重要性を改めて感じてみたい方にお奨めの本です。

本コラムが、読者の皆さんの日々の業務に役立てば幸いです。

【ジャンル】歴史小説
【関連・お勧め書籍】竜馬がゆく、燃えよ剣

(担当:小口 真己

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【書籍名】知識ゼロからの人脈術
【著者】弘兼憲史
【出版社】幻冬舎

本書は、簡単に言うと「島耕作」が指南する人脈術です。

サラリーマンの人生を描いた漫画の主人公と言えば、金太郎とハマちゃん、そして島耕作です。
(金太郎は破天荒であり得ない「物語」なので置いといて)趣味に生きるハマちゃんと仕事に生きる島耕作、この二人に共通するものは「人脈」です。

島耕作氏は、今年8月にめでたく会長にご就任なさいました。なぜ平社員から会長にまで出世できたのか、それはやはり「人脈」の賜物と言えます。彼の人となりや仕事を評価し、信頼し、引き上げる周囲がいたからです。
島耕作氏は、飛び抜けた独自性もクリエイティブな才能もない「普通の人」です。
しかし彼には、「柔らかい頭」がありました。つまり、プライドや見栄にこだわらず前向きに良いものを取り入れ、広くアンテナを張って情報を取り入れる姿勢です。

私自身も今までを振り返ると、日頃の仕事はもちろんですが特に大事な瞬間には、やはり人脈に助けられてきました。自分一人でできることは小さくても周りの人のご協力で成し遂げることができたり、面倒なことでも快く引き受けてくださったりと、人とのつながりこそ私の財産と言えます。
また、周囲の方々から得るものはとても多く、成長させていただいたと思います。

そういった人脈の大切さを説く本は、巷にたくさんあります。
本書には、心構えや概論ではなく、具体的に活かせる64のポイントが記載されています。
私たち「普通の人」が、日々の生活の中で困ったときに頼れる知恵や、様々なシーンで使える技が満載の実用書としてお勧めです。

【ジャンル】ビジネス、経済、人脈、コミュニケーション
【関連・お勧め書籍】島耕作シリーズ

(担当:瀧川 仁子