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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第七回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、論理を展開する際の基本的なポイントである「論点」の採り上げ方についてのお話をしました。理想的な論点の数は「3点」であり、それを上回っても下回っても理解しやすく説得力のある説明は難しくなること、またその理由としては「人間の短期記憶の量」「ピラミッド構造のバランス」「論理展開との親和性」が挙げられることがポイントでした。

今回のコラムでは論点の採り上げ方と関連する話として、論点を展開する際の基本的な流れ、すなわち「話の広げ方」について説明したいと思います。

論理思考の基本として、第三回のロジカルシンキング編コラムで採り上げた「人間の思考回路の基本構造」をもう一度思い出しましょう。人間の思考回路は最重要ポイントを頂点とし、階層が下がるほど思考の詳細レベルが上がる「ピラミッド構造」となっています。このピラミッド構造に即した形で論点を展開する際には、

・掘り下げ
・広がり
・優先順位

この3点を考慮することが大切なポイントとなります。以下、順に説明します。

「掘り下げ」とは、話の階層(=レベル)を下げて、より詳細な内容を説明することを意味します。例としては、伝えたいテーマに関しての状況や理由、あるいは自身の考え方や提案などの説明が該当します。この場合は、テーマがピラミッドの最上段に存在し、その一つ下の階層に、そのテーマに至った状況や理由・考え方等が位置する形となります。さらに、その理由・状況・考え方等を再び「掘り下げる」ことにより、必要に応じて詳細な内容、例えば実験やアンケートの結果、過去の実績等の説明を行います。

このように論点の階層を掘り下げ、話を大まかな内容から徐々に詳細なレベルに落とし込んでいくことで、相手が理解しやすい形で話を広げることが可能となります。この考え方は、ちょうどピラミッドを平面で捉えた際の「上下(垂直)方向」になぞって考えを掘り下げるイメージとなりますので、私はこれを論理思考における「縦方向思考」と呼んでいます。

「広がり」とは、同じ階層における複数の詳細な内容を組み合わせることで理解・納得のしやすい話を構成し、説明することを意味します。例としては、最上位階層のテーマが「店舗に対する新商品の提案」であるならば、一つ下の階層には「売上メリット」「コストメリット」「納期メリット」等を示して広がりを持たせること、あるいは「売上メリット」のレベルに着目するならば、その一つ下の階層には「お客様ニーズ」「デザイン」「機能性」等を示して広がりを持たせること、というイメージになります。

この点は前回のロジカルシンキング編コラムで説明した「論点は3点」という話とも繋がる部分であり、上記の例のように複数の詳細内容を組み合わせることで、一つ上の階層の説明の根拠を示したり、説明自体の妥当性を補強することができます。この考え方は、ピラミッドの「左右(水平)方向」に従って考えを広げていく形となりますので、私はこれを論理思考における「横方向思考」と呼んでいます。

「優先順位」とは、同じ階層における複数の内容に関し、採り上げる順番を考慮した上で説明することを意味します。例としては、先程の「店舗に対する新商品の提案」について、「売上」「コスト」「納期」の順で話をするのか、あるいは「コスト」「売上」「納期」の順で話をするのか、というイメージです。

話の展開を論理的に考える際には、説明の順番は非常に重要なポイントとなります。そもそも論理思考とは「Q&A」であるという説明を第一回のロジカルシンキング編コラムで行いましたが、自分が話をする順番を決める上では、相手が最も疑問に思っていることを最大限考慮する必要があります。例えば、相手は「売上」について一番知りたいのに、自分は「納期」の話から始めてしまったら、相手は「なぜ納期の話から始まったのだろうか」「売上についてはどうなのだろうか」と、新たな疑問を持ってしまう可能性もあります。このように、話の広がりを考える上では「順序」についても考慮する必要があります。

まとめますと、話を上手に広げる際は、

・掘り下げ=「縦方向思考の原則」
・広がり =「横方向思考の原則」
・優先順位=「順序の原則」

これら3つの原則を考慮する必要があります。

この3つの原則に従うことで「論理のピラミッド」を構成することが出来ますので、私はこれら3点をまとめて

「ピラミッド思考の原則」

と呼んでいます。ピラミッド思考の原則=「縦方向思考」「横方向思考」「順序」というイメージです。

「縦方向思考による掘り下げ」「横方向思考による広がり」「順序による優先順位」この3点をしっかり意識することで、相手が論理的に理解しやすい話の構成を展開することが可能となります。話を上手に広げたいと思った際には、是非この3点を思い出していただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓

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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第六回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、相手と共通の「話の土台」を考える際のポイントをお話しました。論理を展開する上では

1. 状況(Situation)
2. 深掘(Complication)
3. 疑問(Question)
4. 答え(Answer)

この4つの視点で話の内容を整理することで「相手との共通の土台」を明示し、相手の疑問に答えながら、自分が伝えたいこと=答えを述べていくという流れが重要であり、この流れを意識することで、話の展開や繋がりの理由を相手がイメージしやすいような論理の組み立てを行うことが可能となるということでした。

今回のコラムでは、論理を展開する際のもう一つの基本的なポイントである「論点」の採り上げ方についてのお話をしたいと思います。

皆さんがプレゼンや報告・説明等を行う場合、「どこまで詳しく話をしたらよいのだろうか?」と悩んでしまうことはありますでしょうか? あるいは、逆に皆さんが話を聞く立場の場合、「この人の話は長いな」「要点がよく分からないな」「何が言いたいのだろう」ですとか、逆に「これだけで話が終わってしまうの?」等と思ってしまうことは、ありますでしょうか?

実はこのような疑問や状況に対しては、「適切な論点数」を覚えておくことで効果的に対処することが可能となります。

適切な論点数、言い換えれば「話の内容を掘り下げて説明をする際の、詳細説明の適切な数」は「3点」となります。そして、論点数については「3点」を上回っても下回っても、理解の妨げとなる可能性が高くなります。すなわち「必ず3点にまとめる」ことを目標とする必要があります。

論点数の理想が「3点」である理由は「人間の短期記憶の量」「ピラミッド構造のバランス」「論理展開との親和性」にあります。

論点数の理想が3点である一番の理由は「人間の短期記憶の量」にあります。この数字は論理思考以外でもいろいろと応用が利く数字ですので是非覚えておくことをお薦めしますが、人間の短期記憶の量、言い換えれば「説明された瞬間に覚えておくことが可能な要点数」は「5プラスマイナス2」すなわち「3つから7つ」と言われています。この短期記憶量には個人差がありますが、一般的には「3つまでであれば理解した要点を覚えておくことが出来る」ということになりますので、まずは「3点以下」に要点数を抑えることを目指す必要があります。

そして「3点以下」を目指す際に、逆に論点が「1つ」や「2つ」ではいけない理由が「ピラミッド構造のバランス」にあります。人間の思考回路の基本構造は「ピラミッド構造」であることは第三回のロジカルシンキング編コラムでご紹介しましたが、テーマからの「掘り下げ」と「各階層における網羅」を考える際に、論点が1つ(=各階層の項目数が1つ)ではピラミッド構造を構築できませんし、論点が2つ(=各階層の項目数が2つ)では「広がりが少なすぎてピラミッド構造が不安定」となり、「他に何か要点はないのだろうか」「この内容だけで結論づけてしまってよいのだろうか」等の疑念を相手に与えてしまう可能性が高くなります。

論点が「1つ」や「2つ」ではいけないもう一つの理由は「論理展開との親和性」で説明できます。論理展開の基本的な流れは前回のコラムで説明した「状況」「深掘」「答え」となります。例えば

「このような現状があり(=状況)、今後このような展開が想定されるので(=深掘)、これらの対策を行いましょう(=答え)」

というイメージですが、これをもし

「このような現状があるので、これらの対策を行いましょう」

と説明すると、対策を行う理由に対しての深掘説明が存在しないことになり、あるいは

「今後このような展開が想定されるので、これらの対策を行いましょう」

と説明すると、対策を行う理由に対しての現状説明が存在しないことになりますので、いずれにしても「現状」「深掘」「答え」の3点をカバーした例と比較すると、説得力に欠ける印象を与えてしまいます。もちろんですが「これらの対策を行いましょう」と述べるだけでは、説得力が非常に弱くなってしまうのは自明かと思います。

このように、「人間の短期記憶の量」「ピラミッド構造のバランス」「論理展開との親和性」との関係から、論点数の理想は「3点」となり、それを上回っても下回っても、理解しやすく説得力のある説明を行うことは難しくなります。実際には、論点を「正確に3点」にまとめることは非常に「頭を使う」作業であることが多いです。重複する内容があってはいけませんし、漏れがあってもいけません。何より「2つまでは思い浮かぶけれど、3点目がなかなか出てこない」というケースも、実際の実務においてはよく発生します。ですが、そこでもう一歩踏み込んで「3点目」を考え出すことで、話が非常に分かりやすくなり、相手も納得しやすくなりますので、3点をしっかり考える価値は十分にあると私は考えています。

論点は「正確に3点」にまとめること。ぜひこの点を意識しながら、話の展開を考えてみていただければと思います。参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓

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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第五回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、相手の疑問を予測するための基本的な考え方についてのお話をしました。論理思考の上でもプレゼン等の上でも、「相手の疑問を踏まえた上で」話の展開を考えることが重要ですが、相手の疑問については

1. 何をすべきか?(What)
2. どうすればよいか?(How)
3. それは正しいか?(Right)
4. なぜか?(Why)

この4つのパターンに大きく分類することができますので、もし相手の疑問がイメージしにくい場合は、まずはこれらのパターンを入口として考えてみるとよいということでした。

今回のコラムでは、相手の疑問の予測というテーマに関連し、話の展開や流れを考える上での「共通の土台」の重要性について触れたいと思います。

例えば、皆さんが上司の方から業務上の指示を何か受けることを以下の2パターンでイメージしてみてください。

1. 「この内容・クオリティ・期限で業務を仕上げて欲しい」
2. 「この業務にはこのような事情や背景があり、このような結果が期待できるので、この内容・クオリティ・期限で業務を仕上げて欲しい」

仮に、内容やクオリティの要求水準が高かったり、期限が厳しかったりする場合は、パターン1よりもパターン2の方が、より「腑に落ちた」状態で業務に入りやすいのではないでしょうか。あるいは通常の業務でも、単にパターン1の話をされるよりも、パターン2の話をされた方が、仕事をする「意義」を感じながら業務に取り組むことができるのではないでしょうか。

では、パターン1とパターン2の違いはどこにありますでしょうか? パターン2はパターン1の内容と比較して「業務に関する事情や背景」あるいは「結果のイメージ」の説明を加えているところがポイントですね。

これがまさに「相手との共通の土台」のイメージとなります。論理思考とは「Q&A」、言い換えれば「相手の立場や疑問を想定した上で、相手の納得感を得られやすいように、要点の繋がりを考えること」ですが、要点が繋がる理由を相手がより理解しやすい状況を生み出すためには、自分と相手の間での共通の「事情・状況」や「今後の展開・問題」あるいは「結果・目指す姿」などの「相手との共通の土台」を同時に示しておくことが効果的です。

話の展開や要点の繋がりを考える上での「相手との共通の土台」を考える際には、以下の2つのポイントに分けてイメージをするとよいです。

1. 状況(Situation)=事実。相手も自分も知っている既知の内容
2. 深掘(Complication)=事実や状況の展開や、想定しうる問題

まず、相手と自分の間に共通に存在する既知の事実や状況を示すことで、これからの話の展開のベースとなる現状の認識や摺り合わせを行います。その上で、事実や状況をさらに「掘り下げ(=深掘)」、そこから展開する内容や期待される結果、あるいは発生する可能性のある問題等を示すことで、要点が繋がる理由を相手がイメージしやすいようにします。

これらの「状況」や「深掘」は、相手の立場や疑問に関連する内容を意識することで、話の展開を考える上での「相手との共通の土台」となります。言い換えれば「状況」や「深掘」を明示することで、「相手からの共感」を得やすくなります。その上で、自分が本当に伝えたいこと=「答え」を示すようにすると、単に「答え」を述べる=言いたいことだけを伝えるよりは、相手も「自分事」として話を捉えることができますので、要点が繋がる理由を理解しやすくなります。

まとめますと、論理を展開する上では

1. 状況(Situation)
2. 深掘(Complication)
3. 疑問(Question)
4. 答え(Answer)

この4つの視点で話の内容を整理することで「相手との共通の土台」を明示し、相手の疑問に答えながら、自分が伝えたいこと=答えを述べていくという流れが重要となります。私はこの流れのことを、英語の頭文字4つを取って「SCQA」と呼んでいますが、このSCQAの流れをいつも意識することで、話の展開や繋がりの理由を相手がイメージしやすいような論理の組み立てを行うことが可能となります。

状況・深掘・疑問・答え=SCQAの流れを意識しながら、論理の組み立てを行うこと。これを是非意識しながら、話の構成を考えてみてください。プレゼンや企画等はもちろん、日常の一つ一つの業務についても、よりスムーズに遂行することが可能になると思います。参考としていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓

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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第四回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、人間の思考回路の基本的な構造についてのお話をしました。人間の思考回路はピラミッド構造であり、また「自身の考えを深めるプロセスと、それを分かりやすく伝えるプロセスは全くの別物である」点を認識することの重要性について述べました。

今回のコラムでは少し話の視点を変えて、「相手の疑問はそもそも予測できるのか?」という、論理思考を考える上での根本的な課題の一つについて触れてみたいと思います。

私の過去のコラムをお読みいただいている方は、私がことある毎に「相手の疑問」に対して的確な答えを示すことの重要性を述べていることにお気づきかと思います。相手の疑問に対して的確な答えを示すことで、論理的な「話の繋がり」をきちんと設定することが出来ますし、プレゼンであれば「相手の同意を得ること」に繋がるのですから、「相手の疑問」を予測することは物事を考える際の入口として、非常に大切なポイントであることが分かります。

一方で、「相手」の疑問を「予測」するわけですから、正確に予測できない場合ももちろんありますし、そもそも「相手」のことをきちんと知らなければ、予測を立てることすら難しいのでは、と思ってしまうこともあるかもしれません。「本当に相手の疑問は予測できるのだろうか?」と考え込んでしまう状況になったとしても、決して不思議ではありません。

そこで、今回は相手の疑問を予測する際の「基本技術」をご紹介したいと思います。それは「疑問のパターン分類」です。

実は、ビジネスの現場であれば、相手が持つ疑問は以下の「4パターン」しかありません。

1. 何をすべきか?(What)
2. どうすればよいか?(How)
3. それは正しいか?(Right)
4. なぜか?(Why)

「何をすべきか?」は、何かを行う必要性があることは理解しているのですが、実際に行うべきことがまだはっきりしておらず、その「行うべきこと」について相手は疑問を持っている状態です。

「どうすればよいか?」は、実際に行うべきことがはっきりしている状態で、その「行うべきこと」を具体的に実現するための「プロセス」や「ステップ」について相手は疑問を持っている状態です。

「それは正しいか?」は、こちらの話の内容自体の「真偽」について相手は疑問を持っている状態です。

「なぜか?」は、こちらが話をしている「理由」や、自分自身との「話題の関係性」について相手は疑問を持っている状態です。

言い換えれば、「何をすべきか?」と「どうすればよいか?」は、こちらと相手との間に「基本的な合意」は得られている状態、「それは正しいか?」「なぜか?」は、こちらと相手との間に「基本的な合意」が得られていない状態での相手方の疑問のパターンとなります。社内での指示命令系統が存在する状況で、指示を行う場合は「何をすべきか?」「どうすればよいか?」という疑問が多くなりますし、社内外を問わず、企画・提案等の「新しいこと」や「改善」を行う場合の最初のステップでは「それは正しいか?」「なぜか?」という疑問が多くなります。

いかがでしょうか。一口に「相手の疑問を予測せよ」と言われても、具体的にどうすれば良いか悩んでしまうかもしれませんが、「相手の疑問が上記4パターンのどれに該当しそうか」を考えるのであれば、ハードルは一気に下がるのではないかと私は思います。自分自身が相手の立場に立って、自分がこれから相手に話そうとする内容と同じ話を聞くと仮定した状況で「何をすべきか?」「どうすればよいか?」「それは正しいか?」「なぜか?」の4パターンについて、何をどう感じるかを考えてみると、そこから先の具体的な疑問を想定しやすくなります。

相手の疑問を想定することは、決して容易なことではありませんし、常に正解を得られるわけでもありません。ただし、相手もあくまでも「人間」ですし、ビジネスの現場であれば「立場は違えども、相手の状況を推察できる」ための経験を自分自身が有していることも多いと思います。「もし自分が相手の立場だったら」と仮定した上で、先の4パターンの疑問を入口として、相手の思考回路を想像してみると、自分自身の話の流れや展開について、修正が必要な箇所が見えやすくなると思います。相手の立場に立って論理的に話を展開する際のヒントとしていただければ幸いです。

(担当:佐藤 啓

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ビジネスパワーアップコラム<ロジカルシンキング編> 第三回

前回のロジカルシンキング編コラムでは、言葉の「定義」の重要性についてのお話をしました。同じ言葉であっても、相手と自分の「定義」が異なれば、相手の疑問に答えるための「共通のツール」が存在しないことになります。結果として、論理的な話を組み立てる「前段階」でのハードルが上がってしまうので、言葉の定義については細心の注意を払う必要があるということでした。

今回のコラムからは、いよいよ論理思考の具体的な組み立て方についてのお話を始めていきたいと思います。今回は論理思考を考える上で最も大切なポイントである「人間の思考回路の基本構造」について、お話をしたいと思います。

まず、皆さんの身近にいる方で結構ですので、「話が分かりやすい人」のイメージを少し思い浮かべてみて下さい。どのような特色がありますでしょうか? 声の大きさや話す速度、身振り手振り等、色々な特色が出てくるかもしれませんが、おそらくその中には「言いたいことがはっきりしている」ということが必ず含まれているのではないかと思います。

逆に、「話が分かりにくい人」のイメージも考えてみると、もっと見えてくることがあると思います。話を分かりにくくさせてしまう原因もいろいろ考えられますが、共通しているのは「何が言いたいのかはっきりしない」という点かと思います。

では、「言いたいことがはっきりしている」「何が言いたいのかはっきりしない」この違いの根本的な理由は、どこにあるのでしょうか? 実は、「人間の思考回路の基本構造」こそが、この問いに対する答えなのです。

人間の思考回路は「ピラミッド構造」である

この事実を知っているだけで、論理思考を具体的に行う際のイメージが非常に沸きやすくなります。

上の図に示すように、人間の思考回路は基本的に「一番大切なこと」「一番根本的なこと」「一番言いたいこと」(図では「テーマ」が該当)を先に理解し、その後で「それはなぜ?」と考えることで、考え方を徐々に「掘り下げ」つつ、同時に「他には何かないか」と考えることで、考え方の「広がり」を持たせるようになっています。これを図示すると、テーマを最上段に置き、階層を掘り下げる度に、その階層に含まれる要素が多くなる「末広がり」の形状を採ることが分かります。この形状は「ピラミッド」に似ていますので、人間の思考回路は「ピラミッド構造である」と考えられるのです。

先程の例で採り上げた「言いたいことがはっきりしている」「何が言いたいのかはっきりしない」という違いは、まさにこの「ピラミッド構造」に則して話をしているか、していないかという点に起因するのですね。

「言いたいことがはっきりしている」と感じられる場合、その方の話の構成は、前述の図における「テーマ」→「キーポイント」→「理由」という順番で、「話の大きなまとまり」あるいは「結論」「大切なこと」から始まって、徐々に話の内容が詳細になっていくことが多いと思います。言い換えれば、ピラミッドを「上から下に」掘り下げるイメージで話をしていることになります。

逆に「何が言いたいのかはっきりしない」と感じられる場合は、ピラミッドの一番下の階層である「理由」をいくつか述べた後で、「だから言いたいことは○○です」のように、一つの上のキーポイント、さらにその上のテーマとたどって行くことが多いと思います。ピラミッドを「下から上に」登っていく、すなわち徐々に話の結論が見えてくるという流れで話をしているわけですね。

私も含め、多くの人が物事を考える際には、一般的には「事実・状況・理由」や「自身が感じたこと」から論点をスタートさせることが多いと思います。そして、それらの事象が「総合的に」何を意味するかを考え、結論を練り上げていくことが多いと思います。すなわち、ピラミッド構造であれば「下から上に」登っていく形で、思考を深化させるわけですね。

しかし、自身の思考を深化させることと、相手に分かりやすく「論理的に」伝えることは「全くの別物」です。相手に分かりやすく伝える際には、自身の思考深化のプロセスと「全く逆の流れ」で話をする必要があるのです。すなわち、先に結論や大切なことを述べ、その掘り下げを順次行っていくことで、「言いたいことの本質は何か」「その理由はなぜか」を順序立てて相手が理解しやすくすることが大切なのです。ピラミッド構造であれば「上から下に」掘り下げる形で、深化させた思考を再度逆にたどりながら、説明をするわけですね。

「何が言いたいのかはっきりしない」場合、おそらくは自分自身の思考深化の流れと全く同じ形で、相手にも説明をしているのだと思います。自分自身の思考がはっきり固まっていない(=結論を練り上げている最中)に話をしているのですから、相手も話の要点が見えにくいと感じるのは、ある意味で「当たり前」ですよね。もちろんですが、ブレインストーミング等の「アイデア出し」をする場面であれば、この思考進化のプロセスを複数人で行うことはあり得ます。ですが、自身の考えを「伝える」場面で、その考えを「練り上げながら」話をすることは、あまり効率的ではないことは容易にイメージできると思います。

まとめますと、論理思考を考える上での大切なポイントは、

人間の思考回路は「ピラミッド構造」である

また、

自身の考えを深めるプロセスと、それを分かりやすく伝えるプロセスは全くの別物である

ということになります。
是非、この「人間の思考回路」の特性を把握し、自身の思考深化、並びにそれを「相手に分かりやすく伝える」際に役立てていただければと思います。

(担当:佐藤 啓